人材戦略
「エンゲージメント向上ループ」の高度化により事業戦略と人材戦略を連動させ、企業価値を高める

取締役 専務執行役員
グループ総務・人事、グループ法務・知的財産、
グループロジスティクス、秘書室担当
総務・人事本部長
溝口 稔
三つのキーワード「人材の高度化」「顧客満足」「社員の働きがい」をつなぐ
キヤノンMJグループは事業戦略と人材戦略の連動性を強化するため、「2022-2025 中期経営計画」から基本方針に「エンゲージメント向上ループの確立」を追加しました。エンゲージメント向上ループは「人材の高度化」「顧客満足」「社員の働きがい」の三つの要素で構成されます。パーパスに共感し、体現しようとする社員が能動的にスキルアップに励み、人材の高度化が実現する。その結果、お客さまへの提供価値が向上し、顧客満足につながる。顧客満足向上により社員の貢献実感が高まり、社員は働きがいを感じる。働きがいが高まった社員は成長意欲がわき、それがさらなる人材の高度化につながる。このような好循環を高度化しようとしています。現在、このエンゲージメント向上ループの三つの要素の間にある項目を洗い出し、そのつながりを整理し、それらの指標策定を進めています。
指標策定に関しては、財務関連指標だけではなく、社員が社会への貢献を実感できるものとして非財務関連指標も重要と考えています。エンゲージメント向上ループではこの二つの指標が密接に結びついています。財務関連指標と非財務関連指標を連動させ、取り組みを可視化・高度化し、全社および各個社・各部門での持続的成長を目指しています。
当社グループの製品・ソリューションによりお客さまの課題を解決し、お客さまに満足いただけた結果が業績に反映されたことで、当社グループは4期連続で過去最高益を更新しました。この好業績により、社員の働きがいも高まっており、まさにエンゲージメント向上ループの好循環を創り出すことができたと実感しています。
エンゲージメント向上ループの土台となる三つの企業風土
エンゲージメント向上ループの土台となっているのは、「実力主義」「役割給制度」「価値観・行動基準」です。
当社グループは、行動指針の一つとして「実力主義」を掲げています。結果平等ではなくフェアに評価され、それに応じて公正公平に処遇されることが、自己を高めようとする社員の向上心につながっています。
この実力主義の考え方は1968年の創業以来一貫したものですが、2001年から、年齢や勤続年数に関わらず仕事の役割と成果に応じて報酬を決定する「役割給制度」を導入し、さらなる実力主義への深化を図っています。これは結果だけではなく、仕事のプロセスも評価される制度で、社員が存分にパフォーマンスを発揮できる体制を整えています。
また、キヤノンには「三自の精神」(自発・自治・自覚)という行動指針があり、「三自の精神」を中心とした仕事に対する「価値観・行動基準」を定めています。それは個人主義ではなく、強く自律した個人の努力と実績により、強い組織をつくり最大限の成果を出すという、個人と組織の活性化を目指したものです。この価値観・行動基準をベースとした働き方は当社グループの企業風土として根付いており、常に大切にしている考え方です。
これらの「実力主義」「役割給制度」「価値観・行動基準」は脈々と続いているものであり、「社員の働きがい」の向上、そして企業価値の向上につながっています。
このような企業風土はエンゲージメント向上ループの土台であり、私たちの強みの一つだと言えます。
「人材の高度化」には二つの側面がある
「人材の高度化」については、「事業戦略を成し遂げるための専門人材の育成・獲得」「生産性の更なる向上」の二つの側面から取り組んでおり、当社グループの事業成長を実現しています。
専門人材の育成にあたり、常にスキル強化の取り組みを進めています。当社は創業以来、常にお客さまや市場の変化を捉え、新しいことに挑戦し、事業領域を拡大してきました。事業領域の拡大に伴い、必要とするスキルは絶えず変化しています。他社製のIT機器やソフトウエアの取り扱いが増加し始めた1980年代から、社員のリスキリングに継続的に取り組んでいます。また、当社グループの業容は幅広く、各事業領域において優れた人材が必要です。現在、掲げている「2022-2025中期経営計画」の確実な達成に向けて、それぞれの部門で事業戦略に必要なスキルの定義を行い、スキルレベルを1から5までに設定した上で、スキルレベルごとの人数を現状の人数と照らしてギャップを明らかにし、そのギャップを解消するための教育計画を策定・実施することで専門人材の高度化を進めています。加えて、ITソリューション事業の成長を加速させるために高度IT人材については、専用のレベル認定制度を新たに設定しました。高度な専門資格の保有と、それを生かした業務の実績で認定を行っています。
外部人材の獲得においては、各事業領域において即戦力となるプロフェッショナルな人材のキャリア採用を積極的に進めています。特にSEをはじめとするIT人材の採用は主にキヤノンITソリューションズが手掛けています。IT人材の採用は全般的に厳しい状況と言われながらも、当社グループではキャリア採用だけでなく新卒採用も含めて2024年は前年を上回る人員を確保できています。その理由は、ITソリューション事業に注力している当社グループの伸びしろに対する期待値の高さに加えて、整備された教育制度と早くから採用してきた役割給制度にあります。
また、基礎スキルの底上げにより、「生産性の更なる向上」にも取り組んでいます。ITに関する基礎スキルについては、ITソリューション事業に携わっている社員に限らずグループ全部門において、デジタルスキルを使いこなして生産性を高めていく必要があります。社員一人ひとりの基礎スキルを底上げするため、2023年からグループ約14,000人を対象にDX検定・DXビジネス検定の受検を開始し、プロフェッショナルレベル認定1,000人を目標としており、2024年末時点で925人になっています。グループ全社員がDXへの知見を深めて、お客さまのDX推進を支援する提案力の向上や新たなビジネスモデルの構想力強化につなげていきます。
多様性を生かし今後の成長につなげる
社会課題が複雑化・高度化する中、持続的な成長を実現するにあたり、多様性は極めて重要であると捉えています。これまでの考え方にとらわれることなく、多様な視点や経験を持つ人々が意見を出し合うことで、より創造的で革新的なアイデアを生み出していく必要があります。新たな事業創出につながる構想力、すなわちユニークなアイデアは多様なバックボーンを持つ人たちによる自由な議論の中から生まれます。当社グループ社員に実施しているグループ従業員意識調査において「お互いの意見尊重」「協力し合える関係」の設問のスコアは1,000点満点中、それぞれ800点近いスコアになっています。さまざまな経歴、経験を持った社員が自由に意見を出し合い、新たな考えが生まれ、働きがいにつながっていくと考えています。
人材戦略に完成形はないと、私は考えています。業務に求められるスキルと個人の能力・意志を同期させていくことは永遠の課題です。一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、会社と社員が共に成長し続けるための取り組みを進める。これが私の役割と心得ています。
当社グループでは、社員の年次評価において、業績に加え、「価値観・行動基準」と照らした評価も実施しています。昨年、この「価値観・行動基準」に、パーパスの要素を反映し、パーパスを体現する言動が評価と連動するようにしました。「価値観・行動基準」を含め、大切にしている行動指針や企業風土のもと、今までの人的資本の取り組みを整理しながら、エンゲージメント向上ループの高度化を着実に進めていきます。

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本ページの内容は統合報告書発行当時の情報です。