人材戦略
2026年6月
人が変われば、会社は変わる。変革を加速させた5年間を礎に、次の成長戦略を切り拓く
取締役 専務執行役員
グループ総務・人事、グループ法務・知的財産、
グループロジスティクス、秘書室担当
溝口 稔
「2021-2025 長期経営構想」では、スピード感のある人材戦略が好循環を生み出し、過去最高益の達成をけん引しました。今後は人員減少を見据え、生産性向上を一層加速させる構造転換が急務となります。「2026-2030 長期経営構想」では、「シン・終身雇用」を軸に、個人と会社の成長を同期させ、多様な人材が高度な価値を生み続ける組織へと進化することで、持続的な成長の実現を目指します。
スピード感のある人材戦略が過去最高益をけん引
2021-2025 長期経営構想の人材戦略における最大の成果は、「エンゲージメント向上ループ」を創出し、事業戦略と人材戦略をこれまでにないスピードで連動させた点にあります。この強固な連動こそが、5期連続の増収増益という成果につながりました。
この5年間を振り返ると、経営に好循環をもたらした要因は、一言で言えば「スピード」に尽きます。以前から現場の社員は、変化の必要性を十分に理解していましたが、それを実行に移すまでのスピード感に課題があったのです。この数年間で実行スピードが飛躍的に高まったことが、大きな変革と成果につながりました。
その象徴的な例が、コロナ禍での対応です。当社は「ピンチをチャンスに変える」という覚悟のもと、在宅勤務や働き方改革を一気に推進しました。平時であれば数年を要したであろう取り組みを、短期間で定着させることができました。その結果、残業時間は大幅に削減され、現在もオフィスの20時消灯が定着しています。ここで重要なのは単なるコスト抑制ではなく、「限られた時間内でいかに付加価値を生むか」という発想への転換です。この「時間の使い方」に対する意識の劇的な変化が、次なるステップである事業構造の転換を支える土壌となりました。
この土壌の上で取り組んだのが、戦略を動かす「人」そのものの変革です。当社が目指すITソリューション事業へのシフトや事業ポートフォリオの転換は、現場が変わらなければ実現しません。この5年間で特に重要だったのは、外部人材の獲得以上に、既存の社員がどれだけ変化できたかという点です。もちろん、M&Aや専門人材の採用は即効性のある手段ですが、それだけでは本質的な課題を解決することはできません。社員一人ひとりが仕事の進め方や価値創出の方法を自律的に変えていったことにこそ、意義があります。
昨年、社員表彰制度の審査で社員のプレゼンテーションを聞き、私はその変革を確信しました。過去は「デバイスをどれだけ販売したか」という話が中心でしたが、現在は「顧客にどのような価値を、どのようなストーリーで提供したか」を語る内容へ大きく変わっています。提案の精度や視座も向上しており、まさに人材の高度化が事業成長をけん引していると確信した瞬間でした。
この変革を加速させた原動力が人材戦略委員会の存在です。社長、取締役、事業責任者が2カ月に一度必ず集まり、人材の課題を経営の重要課題として直接議論してきました。この場があったからこそ、議論が抽象論に終わらず、全社員のリスキリングといった具体的な施策を迅速に実行できたのです。その結果、DX認定制度などを通じて育成されたプロフェッショナル人材は1,400名を超え、次なる成長を支える強固な基盤が整っています。
当社特有の年齢別要員構成による「急激な人員不足」
一方で、この5年間で積み残した課題もあります。日本全体で進む生産年齢人口の減少という構造的な課題に加え、当社固有の課題として、年齢構成のゆがみが挙げられます。間もなく定年を迎える世代が厚く存在する一方で、リーマンショックなどの影響で採用を抑制した30代後半から40代前半の層が薄くなっています。つまり、大量のベテランが第一線を退く一方で、本来中核を担うべき主力層が十分に存在しないという状況が、2030年頃には現実的な経営課題として顕在化する見通しです。
人員減少が不可避である以上、今のうちに仕事のやり方そのものを変えなければなりません。その中で生産性を上げていくために鍵となるのが「スピード」となった時に、当社はまだ十分とは言えないと認識しています。私は以前から、「半分の人数で回すつもりで考えよう」と繰り返し伝えてきました。10人で行っていた業務を9人、8人で回すのではなく、最初から半分の人数でも成立する仕組みに再設計する必要があるのです。
そのために重要なのは、「やらないことで済む仕事」を増やすことです。IT化できる業務はITに委ね、アウトソース可能なものは外部に任せ、業務プロセスそのものを抜本的に見直す。現場の努力だけに頼るやり方では限界があります。その限界が来る前に手を打つことこそが、次の5年間に向けた最大の課題だと考えています。
「シン・終身雇用」:画一的モデルを超えた「共感と成長」の循環
2026-2030 長期経営構想に向けた人的資本強化の根幹にあるのは、「人材の獲得と定着こそが企業の生命線である」という不変の認識です。この問いに対し、当社が導き出した答えが「シン・終身雇用」という考え方です。
一度入社した社員は、当社の事業や人、あるいは企業風土のいずれかに「共感」して当社を選んでくれたはずです。その大切な「共感」を起点に、日々の業務を通じて「成長実感」と「貢献実感」を積み重ねてもらう。会社が一方的に雇用を保障する旧来の終身雇用ではなく、社員自身が「ここで働くことが自分の人生にとって意味がある」と感じ、その結果として長く働き続けてもらう。私はこれを結果としての終身雇用という意味で「シン・終身雇用」と定義しています。これは新卒だけでなく、キャリア採用で入社したプロフェッショナルに対しても同様です。会社は、彼らが挑戦し続けられる機会と仕組みを、責任を持って提供しなければなりません。
その一環として、当社では「人が動く仕組み」を抜本的に強化しています。自ら手を挙げる社内公募制度「JOBS」に加え、FA権を有する社員がキャリアや希望する職務について意思表示しマッチングが成立した部門への異動を実現する「FA制度」、さらに昨年からは、部門をまたいだ異動を促進するための新たな施策も始動しました。人材を固定化せず、適材適所の流動性を生み出すことは、組織の停滞を防ぐだけでなく、個人の「挑戦したい」という志を最大化させるために不可欠です。
この「個人の志と機会の合致」は、既存社員だけでなく、外部から加わるプロフェッショナル人材やM&Aによって共に歩むことになった仲間たちにも共通するテーマです。彼らもまた、当社の変革の方向に共感し、自らの専門性を発揮できる「最高の舞台」を求めて参画しています。新しい事業の立ち上げにおいて、異分野で卓越した専門性を持つ人材がその能力を存分に発揮し、事業化のスピードを劇的に高めていく。こうした社内外を問わない「プロとしての熱量」を、戦略上の「最適な機会」へとスピード感を持って結び付けていくことこそが、次なる成長を切り拓く原動力となります。

「エンゲージメント向上ループ」の高度化 ITソリューション 5,000億円をけん引する「人の力」
このように、一人ひとりの熱量と挑戦の機会が合致して初めて、当社の成長エンジンである「エンゲージメント向上ループ」は、より高い次元で回転し始めます。
このループを加速させる要諦は、「会社の成長と個人の成長を同期させること」にあります。私は常に「会社の成長に寄与する個人の成長に対しては、会社は全力でバックアップする」というメッセージを発信してきました。経営が目指す戦略の方向性と、個人の成長・貢献のベクトルが重なる領域へ人材投資を集中させる。これが私たちの基本姿勢です。同時に、組織風土として「心理的安全性」の確保も重視しています。上司と部下がフラットに意見を交わし、多様な視点を受け入れながらも、一度決まった方針には全員が一丸となってコミットする。決定後に陰でブレーキを踏むような停滞を排し、全員で前を向いて進む文化があってこそ、個々の成長は組織の爆発力へと変換されます。
これからの時代、価値の源泉は商品そのものから「人」へと完全にシフトします。かつてデバイスを売っていた時代は、商品自体に価値がありました。しかし、ソリューションを提供する現在においては、提案する「人」の知識、論理、そして顧客から得られる「信頼」こそがビジネスの起点です。だからこそ、会社として人に投資し、その人自身の市場価値を高めていく必要があるのです。
2030年に向けてITソリューション事業を5,000億円規模に成長させるためには、優れた技術だけでは不十分です。その技術をお客さまの価値へと翻訳し、論理的に説明し、実装まで伴走できる高度な人材が欠かせません。実際、昨年の社員表彰制度では、多くの社員が単なる販売実績ではなく「顧客への価値提供ストーリー」を堂々と語る姿を見せてくれました。こうした人材の高度化をさらに推し進め、個人の成長を事業の成長へとダイレクトにつないでいくこと。これこそが人材戦略の中心であり、当社の未来を左右する最重要テーマです。
多様な人材を束ね、「集団の力」で未来を切り拓く
当社の人的資本における最大の強みは、現実を冷静に見据えて環境の変化に柔軟にアジャストしていく力であり、それを支える土台には真面目な組織風土があります。実際に管理職のアセスメント結果を見ても、他社と比較して「課題達成意欲」や「計画管理能力」が際立って高く、定められた目標に対して一丸となって突き進む集団としての力は非常に強いと言えます。一方で、この真面目さは、既存の仕事を自らなくすことへの心理的な難しさや、「問題発見能力」「課題の生成」といったイノベーションに関わる能力が相対的に低いといった課題の裏返しでもあります。
私は「人材戦略に完成形はない」と考えています。企業が永続的に発展し続けるためには、時代や事業戦略の変化に合わせて自らを変革し続けなければならず、それを実現する主体である「人」の育成に終わりはありません。かつてのような単一のビジネスモデルを盲信する時代は終わり、現在はITソリューション事業や新規事業など、次なる柱に見合う多様な人材を社内外から集め、融合させていく必要があります。
今後の理想とする組織の姿は、突出した個人の力に依存するのではなく、一人ひとりが強みや専門性を持ち、それらをマネージャーがしっかりと束ねて同じ方向へ導く「集団としての力」を最大化できる体制です。外部の高度人材と社内の中核人材が多様性の中で率直に意見を交わし、より良い方向を模索し続ける企業体を目指し、変化を恐れず挑戦を続けてまいります。
![「シン・終身雇用」における会社と従業員の関係 信頼関係 活躍機会提供/成長支援 意欲的業務遂行 会社 事業成長 従業員 能力向上 経営ビジョンの達成 企業価値の向上 会社と社員は対等な関係(実力主義による正当な評価) 相互の結び付きによる一体感 [目指すエンゲージメントの状態は、会社と従業員相互の“信頼関係”]](/-/media/Project/Canon/CanonJP/Corporate/ir/library/integrated-report/hr-strategy/image/companyandemployees.jpg?h=330&iar=0&w=800&sc_lang=ja-JP&hash=61161AD6C1FFA2A49952BA9D5E69A76C)
お客さまから選ばれる「真のプロフェッショナル」を生み出し続ける
これからの時代は、「人と技術の力」により、社員一人ひとりが自らの価値を磨き続けることが不可欠です。かつてのデバイス中心の時代とは異なり、ITソリューションや社会課題の解決が求められる現在では、肩書きや役職ではなく、その人自身がお客さまにどのような価値を提供できるかが問われています。
形のないソリューションを提供する上で、お客さまから「この人なら解決してくれそうだ」という信頼と評価を勝ち取れる人材こそが、当社の真の価値となります。すでにこの5年間で、お客さまの複雑な業務を丸ごと引き受け、高い付加価値を提供できる人材が着実に育ってきています。
会社としては、こうした人材の育成に今後も一切の妥協を許さず投資を続けていきます。気合いや根性といった精神論に頼るのではなく、技術的な知識や論理的な裏付けを持ってお客さまを説得できる、真のプロフェッショナル集団を構築する。その先に、2030年に向けたさらなる飛躍があると確信しています。
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本ページの内容は統合報告書発行当時の情報です。