財務戦略
成長投資の継続により企業価値を拡大
長期経営構想の最終年度では5年間の集大成を踏まえて、次の飛躍を目指す

取締役 上席執行役員
グループ監査、グループ経理、
グループ調達担当
経理本部長
大里 剛
「2021-2025 長期経営構想」の目標を前倒しで達成、4期連続で過去最高益を更新
事業の概況
2024年12月期は、売上高6,539億円(前期比7%増)、営業利益531億円(同1%増)、純利益393億円(同8%増)の増収増益となり、4期連続で過去最高益を更新しました。その結果、これまで当社グループが進めてきた「2021-2025 長期経営構想」の当初計画を1年前倒しで達成することができました。株価は1月の決算発表後に上場来高値を更新しており、当社グループの目指す変革の方向性が、ステークホルダーの皆さまから評価いただけていると実感しています。
好業績をけん引しているのはITソリューション事業です。顧客層別に異なるニーズに対して最適化されたソリューションを提供することで成長事業を順調に伸ばしてきた結果、当期の売上高は3,146億円(同17%増)となり、グループ売上に占める比率を前年の44%から48%にまで高められました。一方で、キヤノン製品事業はリカーリングビジネスの比率が高く、当社グループの収益基盤を支えています。加えて、ITソリューションの保守・運 用 サービス/アウトソーシングの割合を増やすことでストックビジネスを充実させ、継続的に利益を稼げる体質に強化できてきています。

投資戦略の進捗状況
事業成長に向けて2025年までに2,000億円以上の成長投資を実行することを打ち出してきました。その進捗状況については、2024年までに目標の約70%まで投資を実現できています。「事業投資」「人材投資」「システム投資」の3領域の中で「事業投資」については、2021年から2024年の4年間でM&Aを3件、出資を13件、事業譲受を1件行いました。投資先として選んできたのはいずれもITソリューション事業の領域で、SI関連、映像ソリューション関連、BPO関連など当社グループのアセットを有効活用できる企業です。これからの成長に欠かせない領域に対して積極的な投資をさらに続けていきます。
2010年からスタートしたデータセンターの構築は、先行投資が成果に表れている一例です。データセンターは10年以上の時間をかけて、お客さまのDX支援サービスやクラウドサービスの中核拠点として育ててきました。さらにロングスパンでの投資を手掛けるのがCVCファンドです。最先端の技術やビジネスアイデアを持つスタートアップへの投資は、未来の社会課題を起点としたバックキャストの視点で新たな事業領域に取り組み、さらにフォアキャストの視点で既存事業の拡大にもつなげていきます。
一方で、当社グループの事業ポートフォリオを強化、拡大していく上で、当社がベストオーナーであるかという観点から検討し、2024年には連結子会社1社をグループ外企業に売却いたしました。
「人材投資」については、社内人材の高度化と外部からのプロフェッショナル人材採用の二方向で進めています。既存社員に対する学習やスキル向上のための投資は、今後も継続して行っていきます。
また、管理職の中から選抜した、将来の経営を担う人材候補に対する研修も行っています。課長クラス・部長クラスから選抜された十数人を対象とする1年間の研修では、企業経営についての考え方を徹底的に学び、人間力の向上も図ります。
「システム投資」については、ビジネスプロセス刷新プロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトでは、環境の変化や事業の変革等に対応できる業務プロセスの構築と、基幹系システムの刷新を実行することで高い生産性を実現してまいります。



手元資金を確保し、成長投資と株主還元を継続
キャッシュアロケーション
2025年までの2,000億円規模の成長投資を進めながらも、継続的かつ安定的な株主還元を行うと同時に必要な手元資金も確保しています。2021年から2025年の5年間では、営業キャッシュフローとして約2,000億円、配当総額は約700億円を見込んでおり、連結配当性向は、2023年度より従来の目標値を上方修正し40%以上を目途として配当を実施しています。
また昨年は2度の買付けにより約850億円の自己株式取得も行いました。これは成長投資や株主還元とは別枠のキャッシュアロケーションであり、狙いは資本効率を高めることによる企業価値の向上にあります。これによりEPSは320円、ROE9.6%、PBR1.5倍など全ての経営指標の向上につながりました。また取得した自己株式を直ちに消却し発行済み株式総数を減らした結果、資本政策上の課題の一つであった流通株式比率を、従来の約38%から45%程度まで高めることができました。
資本コストを意識した経営
資本コストについては、CAPM(資本資産価格モデル)を用いて計算すると5~6%程度と算定されますが、株主や投資家の皆さまとの対話を通じて市場からの期待はそれ以上と認識しています。ROEについては10.0%を2025年の達成すべき目標としています。事業収益を拡大すると同時に資本効率を意識した経営を進めることでROEをさらに高め、エクイティスプレッドの拡大を図ってまいります。
そのためには、ROE向上と同時に資本コスト低減が必要であり、さらなる開示拡充に取り組むべきと認識しています。事業面においては、当社グループが4期連続で増収増益を達成するために取り組んできた点について、また、ガバナンス面においては、親子上場企業でありながら親会社からの独立性を確保している点について、より一層の透明性を高めた説明をしていきたいと考えています。昨年末時点で500億円の残高があった親会社への貸付金は、2025年3月末時点で全て解消しており、その資金は当社グループの成長投資に活用していきます。
当社が保有する政策保有株式についても、その縮減に向けて一段とギアを上げていきます。また、当社の株式を政策保有株式として持つ企業から、株式の売却等の意向を示された場合には、それを推進する立場をとってまいります。政策保有株式の縮減により得られたキャッシュは成長投資へと回し、同時に資本コスト低減に努めながら情報開示も強化し、株価向上につなげていきます。

キャッシュ創出力が高い固定資産への組み換えを進める
当社グループが目指すビジネスモデルは、ITソリューション事業におけるサービス型の事業モデル創出と、その拡充による成長です。既存のキヤノン事業と合わせて安定的なリカーリングビジネス構築を、収益性を高めるために推進していきます。その結果として稼ぐ力が高まり、新たなキャッシュを生み出して、さらなる成長投資やキャッシュを効率的に創出する固定資産へ資金を回す好循環を目指していきます。その主な内容は自社の基幹系システムの刷新や、サービス型事業モデルへの変革を推進するためのソフトウエアへの投資です。特定業種を対象に構築したソリューションサービスを同業種向けに横展開したり、規模の異なる企業向けに縦展開を行うことで、効率的な開発体制によりストックビジネスの基盤を構築していきます。
今後も積極的にM&Aを進めていく中では、高い超過収益力のある企業のM&Aにより、多額ののれんや顧客関連資産の計上およびその償却費負担の増大も考えられます。その際には短期的な視点で考えるのではなく、中長期的なシナジーを見据えた上で投資内容を判断していきます。また、M&Aにおいて当社グループが重視するのがPMI(Post Merger Integration)です。買収企業およびグループ全体の企業価値向上を実現し、さらなる成長を目指す上では経営基盤の統合にとどまらず、シナジーを創出する活動を継続することが重要です。直近にグループ入りしたTCS、プリマジェストにおいても、このPMI活動に力を入れています。
ステークホルダーの皆さまへ
2024年末時点でバランスシートでは、自己資本比率73%、流動比率約270%となっており、圧倒的に負債の割合が少なくなっています。これからも稼いだキャッシュは成長投資と株主還元に使っていきますが、借入をゼロにしようとは考えていません。
約2,000億円の成長投資を打ち出してきましたが、今後仮に手元資金だけでは賄えないM&A案件があったときには、借入を生かした投資も視野に入れています。その結果として一時的に負債が膨らんだとしても、投資のチャンスを逃すことなくレバレッジを効かせていくべきだと考えています。
現時点のバランスシートは極めて健全かつ盤石ですが、だからといってそれを固守するのではなく、好機と見ればためらわずに投資を実行し、その結果が最終的にはエクイティスプレッドの拡大につながります。
当社グループは、ITソリューション事業の順調な伸びもあり4期連続で増収増益を続けています。成長の原動力に対する市場の理解を一層高めるために、より分かりやすく積極的な情報発信が必要と考えています。当社グループならではのITソリューション事業の強みなど、事業セグメントごとの情報開示を拡充していけば、企業価値向上につながると考えています。加えて資本収益性の向上と利益拡大により、ROEを高めていきます。
2025年は、過去4年間かけて積み上げてきた活動の集大成の年であり、それが長期経営構想最終年度の実績となります。2026年の年初には次の長期経営構想と中期経営計画で、新たな考え方や取り組みを発信していきますので、ぜひご期待ください。

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本ページの内容は統合報告書発行当時の情報です。