投資家との対談

多くの成果を得た「2021-2025 長期経営構想」が終わり、新たに「2026-2030 長期経営構想」が始動しました。当社グループがITソリューション事業を重視した戦略へと大きく舵を切る中、投資家の皆さまは当社グループをどのように評価しているのか。野村アセットマネジメント株式会社の桜井雄太さまを迎え、投資家の視点から見た当社グループの実績に対する評価や、ITソリューション事業を中心とした今後の成長性への期待について、IR担当役員の蛭川が、お話を伺いました。
「2021-2025 長期経営構想」の評価と当社の強み
蛭川:当社グループの2021-2025 長期経営構想(以下、21-25長経)が終わりました。この21-25長経では、「キヤノン製品事業」と「ITソリューション事業」それぞれの成長戦略を示しました。キヤノン製品事業は成熟領域ですから、収益性を高めていく戦略を進めました。一方、ITソリューション事業は、日本の少子高齢化が進む中で、生産性向上のためのIT投資が拡大していくという認識のもと、成長領域として積極的に投資を行う方針を打ち出しました。ただし、単に企業のIT投資の波に乗るのではなく、かつての総花的な事業展開をあらため、当社が有する多様な顧客基盤に深く価値を提供できる特定領域へとリソースを集中させました。大手企業向けの大規模な基幹系システム構築案件と正面から競合するのではなく、大手企業から準大手・中堅、中小企業までを含めた当社グループのお客さまに対する密着力を生かせる領域で勝っていく。このような考え方を事業ポートフォリオとして明確に示したことは、将来につながる大きな成果でした。こうした取り組みを一つひとつ積み重ねていくと、組織としての自信が醸成されていきます。自分たちの取り組みの方向性に確信を持ち、「正しいことを着実に実行すればよい」と考えて取り組む場合と、疑心暗鬼のまま取り組む場合とでは、組織全体としての推進力や一体感が全く違ってきます。この5年間は、そのような組織の土台をしっかりと築くことができた期間であったと認識しています。
桜井さんには当社グループを長年見ていただいており、21-25長経の期間においても、個別の面談などを通じて継続的に対話を重ねてまいりましたが、投資家の立場からの率直な評価をお聞かせください。
桜井:今の蛭川さんのお話にあった通り、21-25長経では、5期連続の増収増益を達成するなど、非常に多くの成果を上げられたと評価しています。コロナ禍という特殊な環境下であったにもかかわらず、利益率は同業他社と比較しても大きく向上しています。
まさに経営陣が経営資源の選択と集中を進めてきたことが、ITソリューション事業の売上伸長、さらには収益性の大幅な改善という「市場を上回る成果(アウトパフォーム)」につながったと見ています。財務目標を達成したという事実もさることながら、厳しい環境を乗り越えた経験そのものが、皆さんの大きな自信につながっているのですね。また、定量的な成果だけでなく、ガバナンスを含めた経営基盤の強化も、この5年で着実に進んだように感じています。持続的な成長に向けて、今後の課題についてはどう考えていますか。
蛭川:今後は、両事業ポートフォリオの収益性をさらに高めていかねばなりません。ITソリューション事業の売上高は3,400億円を超え、売上構成比も51%になりました。一方で、収益性は高まってきているものの、キヤノン製品事業に届いていません。自社ならではの強みを明確にし、その強みを生かせるお客さまにいち早く提供していくことで、収益力を高めていくことが重要だと考えています。また、生成AIは今後の事業展開において欠かすことのできないテーマです。社内における活用をどのように進めるか、さらにそれをいかに社外への価値提供につなげていくかについて、スピード感を持って取り組むことが、持続的成長の大きな鍵になると考えています。
桜井:この5年間、ITサービス業界では、基幹システムの刷新、地方自治体のシステム標準化、自動車の電装化など、需要を押し上げるテーマがいくつもありました。御社はそうした事業機会を的確に捉えてこられたのだと思います。一方で、少し厳しい言い方をすると、「情報サービス会社としてのキヤノンマーケティングジャパンは何に強みを持つのか」と問われた際、その点が十分に明確とは言えない面もあると感じています。それでも、自社ができること、強みとする領域を着実に伸ばしてきたことが、高いパフォーマンスにつながっていることは間違いなく、その点を高く評価しています。
蛭川:正直なところ、圧倒的なNo.1と言える領域は、まだ限られていると認識しています。当社グループの特長は、大手企業から準大手・中堅、中小まで幅広い顧客層を有していることです。特定の顧客層に特化する企業が多い中で、この点は当社ならではの違いでもあり、外部から見ると「どこが最も強いのか」が分かりにくい要因でもあると感じています。この大手企業から中小企業までをカバーする分散型の戦略は、ある領域が弱い時に別の領域で補完できるというリスクヘッジの役割も果たしています。この戦略については、今後も大きく変えることはないでしょう。
桜井:確かにフルカバレッジで事業を展開している点は、大きな強みだと思います。その中でも、限られた経営資源やケイパビリティを活用し、自分たちにできることを見極め、最大限のパフォーマンスを発揮していく。言い換えれば、やらないことはやらない、やるべきでないことには踏み込まないというその姿勢が、結果として競争力につながっているのではないでしょうか。もう一つ高く評価している点は、ガバナンス面での大きな変化です。親会社への短期貸付金の問題や、取締役会の構成見直しも含め、我々投資家が望ましいと考える経営の方向性に沿って、大きく前進した5年間だったと見ています。
蛭川:ガバナンスの強化は、経営として意識的に取り組んできたため、そのように評価いただけたことを大変嬉しく思います。2015年以降、当社グループはまず筋肉質な企業体質への転換を目指して取り組んでおり、その成果は当社グループの想定を上回るスピードで進みました。振り返れば資金がかなり積み上がり、内部留保がやや厚くなり過ぎた面もあったと認識しています。こうした状況を踏まえ、その資金を株主還元に充当するのか、あるいは成長投資に振り向けるのかという点について、取締役会で入念な検討を重ね、実行してきました。投資の在り方やコーポレートベンチャーキャピタルの設立も含め、親会社とも丁寧に調整を重ねながら着実に進めてきた点を評価していただけることは、大変ありがたく受け止めています。
新長期経営構想の見どころとビジネスモデル転換の現在地
桜井:今回、新たに2026-2030 長期経営構想(以下、26-30長経)と中期経営計画を発表されました。これらの構想、計画では、これまでと何が変わり、また何が変わらないのでしょうか。
蛭川:21-25長経では、利益志向を明確にするため、営業利益を最上位の経営指標と位置付けていました。
一方、26-30長経では、売上、営業利益、ROE 、さらにITソリューション売上という順で経営指標を整理しています。売上を拡大しながら利益も高めていく形にしなければ、企業として健全な成長は望めません。その点を明確に打ち出したことが26-30長経の大きなポイントだと考えています。やや堅実に見えるかもしれませんが、これまで私たちは、「やるべきことはやる」「やめるべきことはやめる」という姿勢を地道に積み重ねてきました。今後はそれに加え、M&Aを積極的に行い、当社グループの強みをさらに増していかなければなりません。今後5年間で営業キャッシュフローを3,000億円程度創出することを計画しており、その資金を着実に成長投資に振り向け、新たな力や独自能力を取り込んでいくことが重要だと考えています。
桜井:26-30長経のベースになっているのは、サービス型事業の成長がありますね。これは基本的に、これまでの取り組みをさらに強化していくという理解でよいのでしょうか。新たな取り組みと、従来から進めてきた施策の強化について、どのように整理されていますか。
蛭川:21-25長経の後半において当社グループの強みだと確認できた領域を、いち早く大きく伸ばしていくことが重要だと考えています。例えば、当社グループが注力するBPS(ビジネスプロセスサービス)領域については、今後も需要の拡大が見込まれており、重点的に成長させていきたい分野です。もう一つは、キヤノンITSが得意とするITプラットフォームやサイバーセキュリティを含むインフラ領域です。いずれも、これまで取り込んできた事業とのシナジーを確実に成果に結び付けることで、成長を早めていくという位置付けにあります。さらに、26-30長経の後半にかけては、生成AIへの対応も大きなテーマになってくると見ています。
桜井:21-25長経に引き続き、今回もM&Aが重要なキーワードの一つになっていますね。私は長年御社を拝見する中で、「M&A巧者」という表現が当てはまる企業だと感じています。身の丈に合った会社を選び、その文化や強みを尊重しながら、適切な形で化学反応を起こしてきた。その点が御社ならではの持ち味ではないでしょうか。実際、これまでのM&Aは総じて成功裏に進んできましたし、今後についても同様に成果を上げていかれるのではないかと見ています。敵対的買収に依らず、ビジネス志向に基づいた成長戦略の一環としてM&Aを位置付けている点は妥当だと評価しています。
蛭川:当社グループでは、お客さま以上にお客さまのことを深く理解する、という基本姿勢のもとで幅広い業界で事業を展開してきました。そこから得た「業界に対する深い知見」がM&Aを支えているのだと考えています。それぞれの業界においてどの企業が重要な役割を果たしているのか、どの企業が当社グループの一員となることで力を発揮できるのかを、各事業責任者が見極められるようになってきました。その積み重ねが、現在のM&Aにおける戦略の基盤になっていると考えています。
桜井:まさにその通りだと思います。御社の場合、常にビジネスオリエンテッドな視点で検討を行い、相性の良い相手を見極め、相性の合わないものは無理に選ばないというスタンスが一貫しています。だからこそ、先方から見ても共感を得やすいM&Aになっているのではないでしょうか。私の理解では、これまで敵対的買収は一件もなかったはずです。
蛭川:その通りです。経営者の皆さんには、基本的にそのまま経営を続けていただいています。買収後に経営陣を入れ替え、親会社から一斉に人材を送り込むというやり方は取っていません。相手方の文化や価値観を尊重した上で、新しい化学反応を起こし、より良い形にしていく。そうした考え方は、私たち自身というより、先輩方が築いてきた一つの伝統だと思っています。もう一つ大事なのは、お客さまに対する深い理解です。それが欠けていると、当社グループがどこに強みを集中させるべきかも見えてきません。技術そのものの探索はもちろん重要ですが、それと同時に、お客さまの業務や経営課題をお客さま以上に理解しようとする姿勢を持つことが重要です。この点も当社グループが長年にわたり培ってきた力であり、今後さらに磨いていきたい部分です。
桜井:言葉を少し補うと、「尖った技術」というより、「お客さまの経営課題にしっかりと刺さる技術」と捉える方が、御社の強みをより正確に表しているのかもしれませんね。
蛭川:まさにその通りだと思います。当社グループは、一歩先ではなく、半歩先くらいがちょうど良いと考えています。遠過ぎる未来を描くのではなく、お客さまの現場に泥臭く密着しながら、少し先に顕在化する経営課題にしっかりとフォーカスして提案していく。その姿勢こそが当社には合ったスタイルだと感じています。スマートに尖るというよりも、どちらかといえば地に足を着いた形でお客さまに寄り添い、長く伴走し続ける存在でありたい。「常にそばにいる」「密着度が高い」ことが当社らしさだと思っています。26-30長経で掲げた四つの注力領域についても、こうした姿勢がなければ実現は難しいと考えています。
桜井:多くの企業が現在、ビジネスモデル転換や構造改革を掲げています。受託開発型からサービス提供型へ、人月単価型から価値提供型へ、あるいはフロー型からストック型へと、表現はさまざまですが、いずれも大きなトレンドであり、方向性としては正しいと思います。ただ、「言うは易し」で、実際の転換の鍵を握るのは、やはりどれだけ刺さるソリューションを提供できるかに尽きるのではないでしょうか。そこがなければ、「一気通貫で任せましょう」という関係性には発展しません。そういう意味では、御社にとっての入り口は、この四つの注力領域を磨き、着実に伸ばしていくことなのだと思います。
2,000億円の成長投資をどう見るか
蛭川:26-30長経では、当社グループとして今後5年間で2,000億円の成長投資を行う計画を掲げています。この点について、どのように評価されていますか。
桜井:21-25長経を上回る金額であるという点は前向きに評価しています。営業キャッシュフロー3,000億円に対してそのうち2,000億円を成長投資に振り向け、残りの1,000億円を株主還元、特に配当に充てるという資源配分は、全体として非常にバランスが取れています。投資家としては、配当が多いに越したことはありませんが、成長投資が疎かになれば中長期の企業価値にはマイナスになります。その意味で、成長投資と株主還元の両立を意識した配分は妥当です。配当性向40%以上という水準も、決して低くなく、適切だと感じています。また、投資枠の内訳をあえて細かく固定せず、機動的な判断ができる余地を残している点も、現在の御社には合っています。ただし、その分、投資の成果については、これまで以上に高いアカウンタビリティ(説明責任)が求められることになるでしょう。
蛭川:桜井さんのように柔軟性を重視する考え方と、より明確に示すべきだという考え方に分かれるようですが、特にM&Aはご縁や投資金額といった要素にも左右されるため、あらかじめ細かく配分を決めた上で、短期的に振り返るような性質のものではないと考えています。私自身も、細かく決め過ぎると、かえって意思決定が鈍くなると感じています。手元資金1,600億円も含め、M&Aや自己株式取得などを機動的に判断しながら、結果として次の成長につながる形にしていくことが重要だと考えています。
桜井:計画を細かく示していただくよりも、むしろ年に一度程度、このような投資をしましたという実績を示していただく方が分かりやすいと感じます。やや率直な言い方になりますが、「無駄打ちはしていない」ということが伝わる説明の方が、結果として投資家には伝わりやすいのではないでしょうか。
業界再編や技術革新への対応
蛭川:業界再編の議論においても、規模拡大を重視するのか、化学反応を起こすことを重視するのかで考え方は分かれると思いますが、当社グループは明らかに後者の立場です。規模だけを追い求め余分な資産を抱え込むことがリスクになるのであれば、そうではなく、化学反応によって新しい価値を生み出せる取り組みに注力すべきだと考えています。当社グループの事業領域の中で、まだ当社グループが保有していない技術、あるいは当社グループとは異なる顧客基盤を持つ企業がM&Aの対象になってくると考えています。
桜井:現在進んでいる業界再編は、基本的には規模の経済を追求する動きが中心だと思います。最近では、総合商社や通信会社などが再編の枠組みに加わってきています。失礼ながら、体力勝負では厳しい局面もあるでしょうから、異なる戦い方を探る必要があるという点で、私も同感です。
蛭川:BtoBの分野では、当面、お客さまが単一のサービスだけを求める状況にはならないと見ています。その中で、当社グループのファンになっていただけるお客さまをいかに増やしていくかが、今後の軸になると考えています。そのためには、当社ならではの独自能力を高め、提供価値を着実に磨いていくことが、これまで以上に重要になります。生成AIへの対応についても、長期的には必ず取り組まなければいけないテーマです。SIやBPSの中でも一部の業務は生成AIに置き換わるリスクが高いですが、開発におけるシステム企画・構想などの上流工程の業務は人の力が必要です。足元では、人件費上昇によるコストをどのように抑えるかという観点で、生成AIの活用余地は大きいと考えています。
当社グループでは、「Web Performer」というローコード開発のツールがあり、生産性向上に貢献してきました。今後はさらに生産性を高めるために、「Web Performer」に生成AIの機能を組み込むだけでなく、生成AIの活用を前提とした開発プロセスへの転換を図っていきます。生産性が向上することで開発コストの抑制にもつながると考えています。
桜井:私が担当している他社にも同様の質問をすることが多いのですが、多くの場合、「当面の業績にマイナス影響はない」という回答が返ってきます。その中で、生成AIによる代替リスクを認識し、「リスクはゼロではない」と捉えている点は、非常に高く評価できる点だと感じました。一方で、実装スピードに関しては、大手競合と比較して相対的な遅れが生じていないか、今後も注視していきたいと考えています。
ITソリューション企業への転換に膨らむ期待感
蛭川:投資家の視点から、当社グループが進めているITソリューション企業への転換をどのように評価されていますか。また、当社グループが今後どのような企業へ進化していくことを期待されていますか。
桜井:御社に対しては、相対的には堅実な企業であるという印象を持っています。だからこそ、お客さまとの関係性も強く、業績に大きな影響を及ぼすような不採算案件はあまり発生していない印象です。裏を返せば、チャレンジコストが比較的少ないとも言えますが、その意味でも堅実だと感じます。
蛭川:当社は、密着型で堅実に少しずつ積み上げていくタイプの企業ですが、堅実であることが「変化に弱い」あるいは「チャレンジしない」ということにつながってはいけません。ただし、挑戦を続けていても成功確率が低いと組織は疲弊してしまいます。挑戦と学習のサイクルを、いかにスピードを速めつつ成果を実感してもらえるか、について経営として常に考えています。
桜井:私が御社に期待しているのは、他社に対して明確に差別化できる技術やソリューションを持ち、競争優位性を発揮できる特定領域において、「〇〇といえばキヤノンMJ」と言われるような、圧倒的な差別化とブランドを確立することです。現時点では、まだ道半ばだと思いますので、象徴的な領域をさらに磨き込んでいってほしいと願っています。堅実な経営基盤を維持しつつ、市場環境の変化に即応できるアジリティ(機敏性)を、今後一層高めていくことを期待しています。

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本ページの内容は統合報告書発行当時の情報です。