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社外取締役座談会

「製品販売」から「価値創造」の企業へ。積み上げた信頼を礎に、新たな成長フェーズへ。

「2021-2025 長期経営構想」の評価から、AI時代の新たな課題、親子上場における少数株主保護の在り方、そして「2026-2030 長期経営構想」に向けた期待まで、4名の社外取締役に語っていただきました。

コロナ禍を乗り越え素晴らしい実績を残した「2021-2025 長期経営構想」

大澤:2021-2025 長期経営構想では、あの厳しいコロナ禍の経済状況を乗り越えて、5年連続で増収増益、増配という実績を残せたということを高く評価しています。その要因としては、販売戦略では大きく3点あります。またそれ以外にも、資本効率の向上等の財務面の諸施策、コーポレート・ガバナンスの強化、経営理念や論理の明確化が挙げられると思います。
まず販売戦略の成果の1点目としては、サービス型ビジネスへの転換が進んだことです。従来のハードウエア中心の販売からITソフトウエアを加えたトータルソリューションをお客さまに提供するビジネスモデルを展開し、これをさらにサービス型ビジネスへ転換したことが業績を大きく伸ばした要因と言えます。
2点目としては、このトータルソリューションを顧客層別にきめ細かく行い、お客さまの満足度を上げる密着型ビジネスを強化した点です。
3点目としては、このサービス型ビジネスへの転換のために、M&Aを中心に1,700億円以上の積極的な投資を実行したことです。これによりBPOやITOの領域の収益も大幅に拡大したと言えます。
以上の3点に加え、資本効率(ROE)の向上に取り組み、自己株式取得なども積極的に行い、親会社への短期貸付金も解消しました。そして、2020年から2025年の間に配当水準を2.8倍まで引き上げ、積極的な株主還元を行った点も評価しています。
この5年間は、特に海外の機関投資家から改善を求められていたコーポレート・ガバナンスについても強化してきました。取締役の社外取締役比率を50%とし、女性取締役比率も25%まで増やしました。また、パーパスをしっかり社内に浸透させた上で外部に公表した点も評価しています。当社の経営の考え方は、企業理念を最上位に置き、その下にパーパス、ビジョン、マテリアリティ、戦略・計画、組織・人材というピラミッド構造を形成しています。これらがようやく整理され、経営の論理や理念がより明確になりました。

顧客との接点を強みに進めた事業変革で、ITソリューションが大きく飛躍

長谷部:長年にわたり手掛けてきたキヤノン製品の販売で培ったお客さまとの信頼関係が、ITソリューション事業の飛躍につながっていると感じています。私自身、外から見ていた時から、当社の担当者はお客さまのオフィスに深く入り込み、現場に密着した活動をしていると感じていました。お客さまが抱える課題を熟知した上で、最適なITソリューションを提供できている点が大きな強みです。この5年間で、セキュリティやクラウドをはじめとする幅広いソリューションを提案できるようになったと感じています。
過去の成功体験を抱えていると、新たな分野に踏み出すには勇気が必要ですが、経営陣もDXなどについてあらためて学び、時代に合わせて評価軸を見直していることで、現場も動きやすくなっています。この点は、非常にうまく取り組めていると感心しています。
一方で、課題はやはりAIですね。AIによるビジネスモデルの転換は非常にスピードが速く、この分野への対応は次の5年間の課題になると考えています。これは当社だけではなく、市場全体、全ての企業が直面している課題です。その中で、適切に対応できた企業が今後成長していくのだと思います。

大澤:私は、今後の課題として、さらなる高度人材の育成が重要だと考えています。M&Aなどを通じて人員規模は拡大しましたが、AIをどのように導入してコストを下げ、売上を拡大し、生産効率を上げるかという観点での「AI人材」は、まだ十分とは言えないかもしれません。AI分野は技術進化のスピードが非常に速いため、これに対応するための飛躍的な強化が必要だと考えています。

人材の高度化・ダイバーシティ推進に向けての課題

河本:人材の高度化やダイバーシティの推進についても、着実に取り組んできていると感じています。ビジネスモデルの変化に合わせて、従業員がデジタル関連の資格取得などのリスキリングに主体的に取り組めるよう、会社として真剣に人材育成を進めてきたと思います。
ただし、そのようなスキル面だけではなく、マテリアリティにも掲げている「従業員エンゲージメントの向上」がますます重要になります。自分が何のためにこの会社の中でどのように貢献できるのか、それがお客さまにどう喜んでもらえて、最終的に自分自身の働きがいにつながっているのか。こうしたエンゲージメントのサイクルをしっかり回し、その質を高めていくことが大切だと考えています。次のステップは、これを実行に移していく段階です。
もう一つの課題がジェンダー・ダイバーシティです。女性取締役比率が25%になったといっても、これは社外人材であり、社内からの選任が進まなければ本質的な改革とは言えません。
機関投資家もその点を見ています。外部から求められるから取り組むのではなく、目的意識をしっかり共有した上でジェンダー・ダイバーシティを加速させていくことが必要です。この点については、毎回強く提言しています。
ビジネスモデルそのものが変化している当社にとってダイバーシティ・インクルージョンの推進は大切な要素です。加え、社内の公募制度などを活用して人材の流動化を進め、特に女性が幅広い業務に挑戦できる仕組みを「見える化」していくことが必要だと考えています。

宮原:私自身、就任からの1年間を振り返ると、ジェンダー・ダイバーシティについてはしっかり取り組まれているという印象を持っています。ただ、それを具体的な成果につなげていくためには、今後さらに加速していかないといけないと感じています。IT業界と同様に、会計士の世界でも女性はまだ少数ですが、海外では女性の比率が高い国もありますから、女性に向いていない分野ということは全くありません。女性社員が能力を十分に発揮できる環境を整え、会社として後押ししていくことが重要です。社内からロールモデルとなる人材がもっと出てくると、「自分にもできる」という意識が広がり、後に続く人も増えていくのではないかと、今後に期待しています。

収益構造改革と資本効率の向上に向けて

宮原:財務面においても、この5年間は短期貸付金の解消やM&Aなど、大きな動きがありました。私の就任時期は、ちょうど親会社への短期貸出金を引き揚げたタイミングでもありました。以前からキャッシュアロケーションを強く意識していると伺っていましたが、非常に熱心に、かつ着実に取り組まれていると感じたことを覚えています。足元の財務戦略を見ても、成長投資に充てる金額を明確に打ち出し、実績もしっかり積み上げている点には感心しています。
当社の収益構造は、安定したキヤノン製品事業で収益を確保しつつ、ITソリューション事業を拡大していく形へと変化してきました。国内の複合機やプリンターの市場は成熟しており今後大きな成長は見込めませんが、印刷を必要とするお客さまに対し、的を射た提案を行うことで、売上の維持、収益性の向上は図ることができると考えています。そして、ITソリューション事業の中でも、より利益率の高いサービス型ビジネスへ資源配分を進める流れはうまく機能しつつあると見ています。
株価については、市場からの評価は一定程度高まってきていると認識はしていますが、もっと期待・評価される余地はあるのではないかとも感じています。経営層では資本効率性といった観点も重視されつつありますが、こうした考え方を現場レベルにも浸透させ、「この売上・利益を生み出すために、どれだけの資本を使っているのか、それを改善するために、どの指標に、どのような観点で注力すればよいか」、といった具体的なアクションに結び付けていければ、さらに改善が進むのではないかと思います。

大澤:株価は5年前と比べると大幅に上昇していますが、取締役会としては、まだ上を目指せるという認識を持っています。個人投資家を増やすために株式分割も実施しましたし、取締役会ではさらに企業価値を高めるための議論を重ねています。

「2026-2030 長期経営構想」で問われるAI対応力

大澤:2026-2030 長期経営構想で私が特に注視しているのは、最初の3年間にあたる中期経営計画です。数字を見るとかなりチャレンジングな目標と思われるかもしれませんが、私はそうは思っていません。5年連続で増収増益、増配を実現した現経営陣の実行力や進む方向性については、取締役会等で深く議論を重ねてきており信頼していますし、まだまだ成長できると考えています。もう一つの重要なポイントは、AIへの対応です。例えばソフトウエア開発にAIをうまく活用できれば、生産性や収益力は飛躍的に高まるはずです。AI時代のビジネスモデルに対応できるよう、会社の体質を変えていけるかどうかが、今後2~3年の勝負どころになると思っています。そのためには、これまで以上にAI関連への投資を行っていく必要があるでしょう。またさらに、キヤノン製品とITソリューションに続く、三つ目の大きな収益の柱の確立についても現在の諸施策が実を結び、是非次の3~5年でその道筋を現実のものとしてもらいたいと思っています。現経営陣に大いに期待しています。

長谷部:中期経営計画における、ITソリューション事業の4,000億円、サービス&アウトソーシングの1,400億円という目標は、非常にアグレッシブな目標だと見ています。ただし、セキュリティやBPO、ITOといった分野に注力していくことで、達成は可能であると考えています。そのためには、技術やビジネスモデルが大きく変わる節目を的確に捉え、それに向けた投資や人材育成、M&Aなどをどのように進めていくかが、今後の課題ですね。
アウトソーシングについても、人が担ってきたことをAIに置き換えると言っても、単にAIを導入すれば機能するわけではありません。当社がこれまで培ってきた知見や経験、ノウハウ、業務プロセスなどをAIにきちんと学習させることができれば、それは大きな強みになります。親会社のキヤノンが保有する画像解析や画像診断などの技術との組み合わせも、非常に大きな可能性を秘めています。

M&A人材の活用と組織文化の統合

河本:人的資本の観点では、M&Aや出資というのも、ある意味ではダイバーシティだと私は考えており、社外から新たに加わった人材をどのように活用していくかというのが課題だと捉えています。当社が従来持っていたリソースに加え、外部から得た人材とのインクルージョンを通じて、シナジーにつなげていくかが重要です。カルチャーについても同様で、異なる企業文化をうまく取り入れつつ、必要に応じて従来の当社のやり方を見直すことも必要になってくるでしょう。

宮原:近年、人的資本への投資がROEなどの財務指標にどう結び付くのかといった情報開示が注目されています。ただ、こうした取り組みは短期間で成果が数字として現れるものではありません。その点を投資家の皆さまに理解していただくためにも、もう一段、積極的に開示を進めていく必要があると感じています。自分たちは何に取り組み、どこを目指しているのかというストーリーを示していくことが、第一歩になるのではないでしょうか。

大澤:ここ数年のM&Aにより、2,000人を超える従業員、とりわけ優秀なIT人材を多く迎え入れることができました。これらの人材は、次の成長ドライブの重要なエンジンの一つになると考えています。一方で、異なるカルチャーや考え方、仕事の進め方をお互いに理解し、一体化していくことは簡単ではありません。しかし、これがうまく機能すれば、今後5年でさらに大きな力になるはずです。

河本:大事なのは「対話力」ですね。上下関係ではなく、心理的安全性を確保し、意見を出し合い、一緒に作り上げていくという雰囲気を醸成することが大切です。マテリアリティに掲げているエンゲージメントの向上やガバナンスの向上を、経営の重要課題として決意を持って進めてほしいと思います。

親子上場下で問われる実効的ガバナンス

大澤:親子上場は、当社のガバナンス上、非常に大きなテーマです。投資家からは、「親子上場のままで本当によいのか」「子会社として上場している意義やメリットは何か」と繰り返し問われてきました。だからこそ私たちは、利益相反が生じうる局面で、いかに透明性を確保するかを重視してきました。その象徴が特別委員会です。もともとは少数株主と支配株主の間で利益相反と見られかねない動きにならないよう、意思決定の透明性を高める目的で設置しました。昨年も複数回開催し、以前の自己株式取得の際にはさらに深い議論を重ねました。親子上場していても利益相反が生じないように運営しており、そのことを投資家に説明できる体制を整えてきたわけです。
議論の中で特に重要だったのが、当社の事業構造です。当社はキヤノン製品の独占販売権を有する一方で、親会社からの仕入価格と市場での販売価格の妥当性については、少数株主保護の観点から常に監視する必要があります。仮に仕入価格が一方的に引き上げられれば、利益が親会社側に偏り、子会社の株主に不利益が及ぶ可能性があるからです。こうした点も含め、仕入価格を継続的に監視し、その妥当性を確認していくことも欠かせない取り組みでした。
自社株式取得についても同様で、全ての株主を公平に扱う姿勢が重要です。その上で最終的に問われるのは、「親子上場であること自体にどのような意味があるのか」という点です。私たちは、その問いに正面から向き合いながら、透明性と公平性を徹底し、投資家から信頼されるガバナンスを築いてきたと考えています。

長谷部:当社は親会社とは異なる「SI・ソリューション」「サービス・アウトソーシング」「ITプロダクト・システム構築」の領域を手掛けており、意思決定を親会社から独立した形で行える点は大きな強みだと考えています。
人材採用の面でも、独立した上場企業であることは有利に働いているはずです。一方で、キヤノン製品と組み合わせたITソリューションなど、グループの強みも十分に生かせています。この両立のバランスは、現時点ではうまく機能していると受け止めています。

河本:指名・報酬委員会については、投資家が特に注目しているガバナンス領域の一つであり、とりわけ役員の指名方針や報酬の考え方は、会社の統治姿勢を示す重要なテーマだと認識しています。その中で、社外取締役として委員会に参加する私たちの役割は非常に大きいと考えています。
まず運営面では、委員会の開催頻度や進め方について、より計画的であるべきだと考えています。単に開催回数を重ねるのではなく、年度内に一定のマイルストーンを設定し、継続的に議論を深めていくサイクルを構築することが重要です。場当たり的に開催するのではなく、年間を通じて論点を整理しながら進めることが、委員会の実効性を高めると考えています。また、委員会の構成については、社外取締役中心の体制が重視される傾向がありますが、まずは形式よりも実質的な意見交換の場として機能させることが重要です。その上で、サクセッションプランや報酬水準や構成、業績評価の反映方法、非財務指標の取り込み方などについて、継続的に議論していく必要があります。
単年度業績だけで役員報酬を評価してよいのかという論点もあります。単年度の業績は中期経営計画の目標と連動していますが、長期的な企業価値向上を重視するのであれば、報酬制度により中長期の視点を織り込む必要があるでしょう。こうした重要な論点について、継続的に議論するプロセスが動き出している点は評価していますし、今後はそれをより計画的かつ実質的なものにしていくことが課題だと考えています。

宮原:配当性向40%以上を目途とするという方針については、どの程度を配当に回すかだけではなく、配当に回さない部分をどう活用するかとセットで考えなければなりません。2030年までの長期経営構想では、配当総額1,000億円、成長投資2,000億円という目標が掲げてられており、創出したキャッシュを株主還元に充てながら、今後の企業価値を高めるための成長投資にもしっかり回していくという考え方が、非常に明確に示されていると感じています。配当性向だけでなく、株価の上昇も含めたトータル・シェアホルダー・リターンの観点で、今後も市場の期待に応えていくことを期待しています。個人投資家にも、より親しみを持ってもらえる銘柄となれば、安定した株主基盤の構築にもつながるでしょう。
2026年1月に公表した成長投資についても、複数回にわたって慎重に議論を重ねてきました。大型の投資案件だけでなく、将来に向けた種まきとなる比較的小規模な投資案件についても、取締役会で適切に報告され、モニタリングできる体制が整っています。全てが計画通りの成果に結び付くとは限りませんが、その中から新たな成長の芽が生まれ、育っていくことを期待していますし、取締役会としても継続的に見ていく必要があると考えています。

社外取締役の責務を果たすために

大澤:私が社外取締役として一番大事にしていることは、常勤の経営陣がガバナンス上問題のない経営を行っているかをしっかり監視することです。それに加え、将来に向けてどのような助言ができるのか、経営の戦略性、中長期の方向性について意見を述べることも重要な役割だと考えています。経営陣、特に執行役員クラスの方々とは、年2回の執行役員会などを通じて詳細な議論を行っています。我々としては、成長戦略の立案者で実行者である方々から直接話を聞き、どのような思いで何に重点を置いているのかということを、できる限り把握しようと努めています。

長谷部:親子上場の関係性がある以上、利益相反への注視と、少数株主の利益を守ることが最も大事だと考えており、日常的に意識して取り組んでいます。取締役会に加え、経営会議や幹部会、さらには合宿形式の執行役員会などにも我々も参加し、経営上の課題や日常的に執行部門で議論されているような重要事項についての、情報を得るよう努めています。キヤノン製品の販売を中心とするビジネスモデルから、ITソリューションに舵を切っている中で、これまでとは異なる種類のリスクが次々と顕在化しています。そうした点については、私自身のITソリューション業界での経験を踏まえ、多くの場面で助言を行っています。

河本:社外取締役としての役割を果たすためにも、私はキヤノンとキヤノンマーケティングジャパンの歴史をしっかり学びたいと思っています。現在を理解するためには、過去から培われてきた考え方を学ばねばなりません。その中で、変えることなく大切に守るべきものと、時代に応じて変えていかねばならないものがありますが、必ずしもそれらは相反するものではなく、両立させて生かしていくことも可能だと思っています。こうした意識のもと、会社が用意してくれる会議や現場視察、展示会などの機会には、できるだけ参加するようにしています。
また、社外取締役と言っても、全てを理解しているわけではありません。それぞれ背景や経験が異なる中で、社外取締役同士の対話も大事にしながら、各自の観点で意見を述べていくことを意識しています。

宮原:社外取締役は、その名の通り外部の立場だからこそ、客観的な視点で物事を捉え、伝えるべきことをしっかり伝える姿勢が大事だと考えています。もちろん会社の成長を後押しすることも大事ですが、上場子会社という状況を踏まえ、少数株主の利益を損なわないという意識を、常に念頭に置いて務めていくよう心がけていきます。

  • 本ページの内容は統合報告書発行当時の情報です。