印刷は社会の基盤であり続ける。「goof.CAMPUS」がキヤノンPPSと仕掛けるワクワクする未来づくり
2026年1月27日
「持続可能なものづくり」を目指す社会の流れは、印刷業界にとっても他人事ではありません。株式会社グーフ(以下、goof)が立ち上げた「goof.CAMPUS」は、印刷工場の役割を果たすだけでなく、印刷の新しい価値創出と、印刷業界の持続可能なものづくりを共創していくための「場」として、業種や企業の垣根を超えたつながりを生み出しています。
今回、そんなgoof.CAMPUSにて、goof CEOの岡本 幸憲さんと、共に未来創造に取り組むキヤノンプロダクションプリンティングシステムズ株式会社(以下、キヤノンPPS)の商品企画本部 本部長の竹政 繁に、印刷のいまと変革への挑戦を聞きました。
印刷は社会を支える基幹産業。その価値を拡げるデジタル印刷の可能性
─まずは、日本の印刷業界が直面している現状について教えてください。
竹政:市場規模も事業者の数も縮小しつつあります。かつては、情報を広く周知する中心的な存在として、印刷は圧倒的な影響力を持っていました。しかし、デジタル社会の到来によって、その価値は相対的に下がっています。いま、私たちは印刷の価値創造を真剣に考える必要に迫られています。とはいえ、これは印刷会社単体で完結する話ではなく、発注元、印刷機メーカー、サプライヤー、マーケターといった印刷に関わる方々との共創が欠かせません。
─共創を進める中で、何が鍵を握ると考えますか。
岡本:縮小しているとはいえ、その市場規模は、現在も5兆円を超える規模にのぼります。実際、誰もが毎日、印刷物を目にしますよね。商品パッケージ、製品へのプリント、街に溢れるポスターなども全部そう。あまりに当たり前すぎて、空気のように存在しています。
それらの事実こそが、印刷が、社会に広く深く浸透している基幹産業であることを示しています。ですから、印刷を単なる「印刷されたモノ」として捉えるのか、あるいは社会の「インフラ」として捉えるのか。共創を進めていく上で前提となる、“印刷は社会のインフラ”という共通認識をいかに確立できるのかが鍵になると思います。
─インフラと捉え、新しい価値を届けていくためには、どのような手段が考えられますか。
岡本:重要なのはデジタル印刷ですね。これまで業界を支え、現在も主流であるオフセット印刷(アナログ印刷)は、まず専用の版をつくる必要があるため、初期準備に時間とコストがかかります。高品質を保ちながらの大量印刷が強みですが、少量印刷や即時性、可変性への対応は不得手です。
逆に、デジタル印刷は、版ではなくデジタルデータを使うため、初期準備が少なく、少量印刷や即時性、可変性への対応を得意とする一方で、オフセット印刷に比べて品質に不安があるといわれてきました。ただし、近年は、技術の発展とともに遜色ないレベルにまで改善・安定しつつあります。
例えば、100万枚の印刷物を全国に納品するとしましょう。オフセット印刷の場合、大型のオフセット印刷機1台で集中して刷り上げ、そこから全国へ配送します。一方、デジタル印刷の場合、全国にデジタル印刷機を整備できれば、適地生産・適時生産の柔軟な対応が実現します。納期が早まるだけでなく、輸送距離が短くなるために環境負荷の軽減にもつながります。
─大量に印刷し、大量に流通させる必要がなくなるということでしょうか。
竹政:おっしゃる通りです。私たちキヤノンPPSも、これからも印刷が社会インフラの一端を担うために、従来のような大量印刷を前提にせず、柔軟性や品質をどのように高めていくのかを常に考えています。印刷機単体の性能はもちろん、それがどう生かされ、どのようにして価値を循環させる仕組みを実現していくのか。トータルで体験価値を設計する視点を持って、印刷業界と向き合っています。
単独で印刷業界は変えられない。変革に必要な中立的なプラットフォーム
─そのようなデジタル印刷で印刷の民主化を推し進めているgoofについて、立ち上げの経緯を教えてください。
岡本:父が印刷会社を営んでいたため、幼い頃から身近に印刷がありました。ただ、日本での環境を窮屈に感じていた私は10代で渡米し、大学院在学中から、シリコンバレーでインターネット黎明期にあったITと深く関わりのあるプロジェクトに参画していました。印刷業界に足を踏み入れたのは、米国から日本に戻るタイミングです。
印刷業界にもデジタルの波が押し寄せ始めた頃で、私は、新規事業担当として、デジタル印刷を活用した印刷の可能性を追求してきました。ただ、現場を経験していく中で「どれだけ革新的なことをやろうとしても、1社(自社)だけでは、業界の課題や社会の要望をくみ取り、応えることが難しい」ことも痛感しました。印刷は社会を支えるインフラであるからこそ、横断的な連携をなさなければ大きな価値は生み出せないと感じたんです。
─その経験がgoof立ち上げへとつながっていくのですね。
岡本:そうですね。横断的な連携を促すには、中立的な立場が必要だと考えました。ですから、印刷機を保有して印刷を生業とするビジネスからいったん離れ、2012年にgoofを立ち上げました。印刷事業ではなく、発注と生産を最適化するプラットフォーム事業を主軸としたのです。それが、印刷業界の中立的なハブである、デジタルプリンティングプラットフォーム「GEMiNX(ジェミナス)」です。
GEMiNXは、全国から集まった発注を、条件に応じて、リアルタイムで連携する印刷会社へ振り分けます。デジタルを活用した印刷の最適化によって、これからの印刷業界に求められる大量印刷に頼らないビジネス、柔軟な対応、環境への負荷軽減などが実現できます。また、発注量の融通が利きやすいため、「在庫を持ちたくない」「返品リスクが怖い」といった発注側の課題にもしっかり応えます。
印刷のニューノーマルを共創する「goof.CAMPUS」
─goofは、自社で印刷機を持たずにスタートしたのですね。そこから、印刷設備を備えるgoof.CAMPUSには、どのようにつながっていったのでしょうか。
岡本:自社に印刷設備を持たず、全国の印刷会社と連携するビジネスを広げていくためには、どの連携先でも同じ品質・同じスピードで印刷できるようにする「標準の定義」が欠かせません。そのためには、デジタル印刷の理想的なプロセスや環境を実際に検証し、共有するための拠点が必要でした。
そして、それを実現するのに必要となるのが、拠点の中核となるデジタル印刷機でした。そこで注目したのが、小ロット〜大ロットまで安定した印刷品質を誇る、キヤノンのデジタル印刷機である、商業印刷向け枚葉インクジェット印刷機「varioPRINT iX3200」でした(※)。この印刷機をきっかけに、共創拠点の構想が一気に実現に向かいました。
その結果、立ち上がったのがgoof.CAMPUSです。goof.CAMPUSは、リアルな「ビジネスの場」であり、業界に携わる企業が参加・連携する「共創プラットフォーム」でもあります。ここでは実際に年間数億円規模の印刷事業を行っていますから、ファクトベースで仮説を立て、議論ができます。
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枚葉印刷とは、1枚ずつにカットされた紙(枚葉紙)を給紙して印刷する方法。その反対は、ロール状の紙(ロール紙)を給紙する輪転印刷
─どのような企業が参加・連携されているのでしょうか。
竹政:印刷会社、私たちキヤノンPPSのような印刷機メーカー、紙やインクといった素材のサプライヤー、ロジスティクスといった供給側の企業だけでなく、ブランドや事業会社など発注側の企業も参加しています。競合の有無にかかわらず連携し、印刷にまつわるさまざまなプレイヤーが知恵を持ち寄れる場になっているんです。
岡本:この「共に学び、共に創る」関係は、いわゆる元請け・下請けのような縦の構造とは違い、印刷を育んでいくという同じ目的を持ったフラットなつながりです。例えば、それぞれの印刷会社が持つ色味の管理や紙の扱い、印刷物のさばき方といったノウハウを改めて見直し、共有・標準化していきます。いくらデジタル化が進んでも、印刷会社として積み重ねてきた技術や信頼があるからこそ、安心して発注してもらえますから。そういった強みを生かし、連携させ、さらに進化させていくイメージです。
─先ほどお話に出たvarioPRINT iX3200とは、どのような印刷機なのでしょうか。
竹政:varioPRINT iX3200は、高速と高画質の両立を実現するデジタル印刷機です。1200dpiのプリントヘッドや可変ドロップサイズ技術により、細い線や階調も美しく再現できます。世界ではすでに500台以上が導入されており、シリーズ全体では800台以上。B3サイズのインクジェット枚葉機カテゴリーで、世界トップの出荷台数を誇ります。
岡本:iX3200の出荷台数は、デジタルにシフトしていく印刷業界の変化と需要の高さを示していると思います。印刷量や用途に応じて柔軟に対応でき、品質も安定しています。しかも耐久性が高く、設備投資の面でも優れています。柔軟性と合理性のバランスは極めて大きな武器といえるでしょう。
竹政:もちろん、iX3200が評価されるのは嬉しい限りです。ただ一方で、いま社会に求められているのは、印刷業界全体を盛り上げ成長していくことです。ですから、これは決して「オフセットvsデジタル」といった二項対立の話ではありません。選択肢を増やし、それぞれの特性に応じた最適解を見つけていきます。私たちも、キヤノングループの一員として、例えば「海外の先進的な事例を学び、それを国内に還元する」といった、グローバル企業としての強みも発揮していくつもりです。
印刷をもっと自由に楽しく。ワクワクする未来の創造に向けて
─goof.CAMPUSで取り組む、今後の構想などについて教えてください。
岡本:例えば、いま取り組んでいるのがグローバル展開における適地生産モデルです。ある出版社と一緒に、日本でつくった雑誌を、海外の読者に届ける取り組みを進めています。日本で印刷した物を輸出する従来のやり方では、関税やサプライチェーンがネックになってきますから、GEMiNXを通じて印刷データを送り、現地で印刷・製本・配送します。これにより、CRMの構築も直販も可能になるでしょうし、輸送コスト、CO2排出量の削減にもなりますよね。新しい価値につながります。
実は、この仕組みが実現できるのは、キヤノンのデジタル印刷機が世界中に普及しているからなんです。私は、世界各国の業界関係者と会うたびに感じるのですが、製品の品質はもちろん、グローバルでビジネス展開するジャパンブランドとして、キヤノンへの信頼度の高さは日本の皆さんが想像する以上です。ですから、私たちも自信を持ってこの仕組みを提案できています。
─まさしく世界をまたにかける共創ですね。そのような取り組みが拡がっていけば、これからの印刷業界は、もっと面白く、ワクワクする業界になりそうですね。
岡本:そこで私が大事にしたいのは、「Liberation(自由化)」です。これまでの印刷は、「こうあるべき」という固定観念や思い込み、慣習に縛られていたと思います。例えば、「大量印刷でなければビジネスとして成立しない」「こちら側から提案せず、言われたことだけをやる」といったように。でも実際、印刷は、もっと自由にアイデアを形にするための手段であるべきではないでしょうか。
社会全体を見ても、「やってみたい」と感じたことを本気で追い求めれば、形にすることができる時代になってきました。印刷もそうあるべきですよね。すでに重要なインフラとして社会に根付いている印刷を、これまで以上に自由に活用できるものにしていく。当たり前とされてきた構造や仕組みを見直し、ワクワクする印刷の未来をつくっていきたいですね。
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