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最適解を導く「数理技術」のスペシャリストが挑む、数式だけでは解けない現場の課題解決

2026年2月20日

キヤノンITソリューションズ R&D本部 数理技術部 青山 行宏

「数理技術」と聞いて、すぐにピンとくる人はいるだろうか。実は、私たちの生活やビジネスを支えてくれている、社会になくてはならない重要な技術だ。例えば、目的地までのルート検索やコンビニの在庫管理など、私たちの身近なところで多く活用されている。そしてキヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)には、この技術を60年以上磨き続けてきた専門部隊が存在する。

その最前線に立つのが、R&D本部 数理技術部の青山 行宏。入社以来25年以上、数理技術の世界で複雑な社会課題と向き合ってきた。難しそうでなかなか身近に感じられない、お堅い数理技術の担当者というイメージとは裏腹に、「仕事のほとんどは泥臭い、地道なコミュニケーションの連続ですよ」と笑う青山。数式を操りシステムを作り上げる仕事でありながら、対話を大切にして現場にこだわり、キヤノンITSのDNAの一つである「お客さまに寄り添う心」を体現する、青山の情熱の源泉に迫る。

机上の空論ではない。鉄鋼メーカー時代から60年以上磨き続けた「現場の実践知」

数理技術の概念図

数理技術とは何か。簡単にいえば、「世の中の複雑な仕組みを数式を用いてモデル化し、膨大な選択肢の中から、コスト最小や効率最大といった『最も良い答え(最適解)』を導き出す技術」だ。現在では食品ロス削減やコンビニの商品管理、乗換案内アプリなど、社会課題解決から日常生活の身近な場面に至るまで、幅広く応用されている。

キヤノンITSが誇る数理技術部のルーツは、実は旧住友金属工業株式会社(現・日本製鉄株式会社/以下、住友金属工業)のシステム研究部門に遡る。数理技術は、学術的には「オペレーションズ・リサーチ(OR)」と呼ばれ、もともとは1930年代の英国で防空システムの運用研究から生まれたもので、戦後は平和利用され産業界へ広がった。そして1960年代、日本の高度経済成長期において、製鉄所の複雑な生産工程の自動化や物流効率化のための技術として磨かれてきた。キヤノンITSの数理技術も、元は鉄鋼メーカーの課題解決を突き詰める中で蓄積されたものだ。

キヤノンITソリューションズ R&D本部 数理技術部 青山 行宏

青山自身も、学生時代にORを専攻し、その実用性に惹かれた一人だ。研究の面白さはもちろん、「研究が実社会で役立つことが実感できる」という点に強く惹かれたという青山は、大学卒業後、1999年に住友金属工業に入社した。

「入社してみて驚いたのは、教科書で学んだ理論が、工場の生産計画や物流現場で当たり前のように使われていたこと。カーナビのルート検索も当時は最先端でしたが、その裏側にあるロジックが社会実装されていく様を目の当たりにして、『これはすごい世界だ』と衝撃を受けました」

入社当初は研究職として、ORの関連分野であるデータマイニング(大量のデータから有用な知見を得る分析手法)の研究に従事していた青山だが、入社6年目の2004年に転機が訪れる。現在キヤノンITSの主力ソリューションの一つである需要予測・需給計画ソリューション「FOREMAST(フォーマスト)」の原型となる開発プロジェクトへの参画だ。当時、数理技術部を含むシステム部門は住友金属工業を離れ、キヤノンマーケティングジャパングループ入りしたばかり。もともと住友金属工業の社内システムを開発していた数理技術部は、それまで外販できる「商品」を持っていなかった。そこで、それまでの知見の集大成として、初の「商品」としてのシステム開発に着手したのだ。

入社以来、研究室の中でデータを分析していた青山は、開発チームの一員として、顧客への提案やシステム構築の最前線に立つことになる。それは、これまでの業務とは全く異なる、顧客とのコミュニケーションが何よりも重要になる世界だった。

システムはあくまで「道具」。顧客と対話を重ね、業務改善に伴走するのが仕事

手を組んで語る青山

現在青山たちは、「FOREMAST」、輸配送計画自動化ソリューション「Route Creator(ルートクリエーター)」、サプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet(エスシープラネット)」という、三つの自社開発パッケージを主に提供している。これらは全て、製造業や物流業が抱える「在庫の適正化」「配送の効率化」といった課題を、数理技術で解決するために開発したものだ。

特に青山が導入に関わる機会が多いのが「FOREMAST」。導入支援の現場では、顧客と「需要予測とは何か」について共通認識を持つことからスタートするという。

「需要予測システムと聞くと、コンピューターにデータを入力すれば自動的に自分たちが求める『正解」が出ると考えるお客さまが多くいらっしゃいます。しかし需要予測は100%当たるものではありません。あくまで現場の『意思決定を支援する道具』なのです」

大事なのは、予測を活用しながらも、それがどの程度外れるのかを把握し、外れても欠品や過剰在庫を起こさない業務フローを作ることだという。

「実は、現場のベテランがこれまでの経験や知識から、システムより精度の高い予測を出すことも少なくありません。しかし、特定の個人に依存した現場は、その方が不在の際に立ち行かなくなる、いわゆる属人化のリスクを抱えることになります。

ベテランの方々の高度な判断基準を深掘りし、数理モデルとして構造化してシステムに組み込むことで、誰もが一定の水準で在庫管理や発注ができるようになる。属人化していた知恵を『組織全体の資産』に変えることが、需要予測システムを導入する本質的な意義なのです」

さまざまな顧客と向き合ってきた青山にとって、特に印象に残っているのが、2015年頃に担当した、ある食品関連会社のプロジェクトだ。複数のグループ会社や事業部ごとに異なる物流ルール、現場のベテランが長年の経験で行っていた判断など、複雑な要件が多く、「FOREMAST」の標準的な機能だけでは対応しきれなかった。それらを一つひとつヒアリングし、数理モデルに落とし込み、システムに組み込んでいった。

「開発期間は約1年、メンバーは協力会社を含めても10名程度。技術的にできることとコストのバランスをどこで取るかといった難しさもある中、『ここはシステムで自動化し、ここは人の判断を残しましょう』と、お客さまと膝を突き合わせ、現実的なラインを粘り強く調整していきました」

幾多の課題を乗り越え、予定通りに納入したシステムは現在も継続して利用され、その成功事例がグループ全体の標準モデルとして横展開されるまでに成長した。青山たちのチームは顧客にとって「真っ先に相談できるパートナー」としての地位を確立し、別の生産計画システムの導入にもつながっている。

実は、このプロジェクトの競合には大手ベンダーも名を連ねていた。その中からキヤノンITSが選ばれた理由について、後日、顧客から聞いたのは「一番商売っ気がなさそうだったのが良かった」という言葉だという。

「もちろん冗談半分でお話しされたのだと思いますが、営業トークで『できます、やります』と安請け合いしなかったのが良かったのでしょう。難しいことは難しいと正直に伝え、その上で現実的な解決策を一緒に考えようとする姿勢が、結果的に信頼につながるのだと思います」

武器は「現場に入り込む力」。積み上げてきた信頼を土台に、新たなビジネスモデルも

身振りを交えて語る青山

現在、サプライチェーンマネジメント(供給網の最適化)の領域には、大手ベンダーなど巨大企業がひしめき合っている。彼らは企業の基幹システムを押さえ、需要予測や物流システムの受注を優位に進める立場にある。

そうした「巨人」たちに対し、パッケージソリューションにおいては「チャレンジャー」であるキヤノンITSはどう戦うのか。青山は「現場に入り込む力」が最大の武器だと分析する。

「私たちのルーツは、住友金属工業という鉄鋼メーカーで、自社の現場の複雑な課題解決に携わってきたことにあります。現場をよく知っているからこそ、単にパッケージを導入して終わりではなく、お客さまの業務そのものを一緒に見直す、コンサルティング的なアプローチを重視してきました。また自社開発製品だからこそ、お客さまの細かな要望に合わせて柔軟にカスタマイズできる強みもあります」

その業界特有の商習慣や現場の暗黙知を深く理解し、痒いところに手が届く提案で勝負する。その積み重ねがキヤノンITS独自の立ち位置を築き上げてきた。

こうした確かな信頼を土台に、青山はいま、新しいビジネスモデルを模索している。

「これまでは、単にシステムを開発して導入する『受託型』ビジネスの側面が強くありました。しかし現在は、お客さま自身も気づいていないような経営課題を共に掘り起こし、解決策を提案する『提案型』へのシフトを加速していきたい。技術力だけでなく、ビジネスをデザインする力が求められるフェーズに来ていると感じています」

まだまだ活躍の場がある数理技術。いつかは宇宙規模の課題解決へ

近年、生成AIをはじめとするAI技術が急速に進化している。「予測やシミュレーションなんて、いまはAIでもできるんじゃない?」──そんな問いに対し、青山は冷静にこう答える。

「AIは与えられた問題に対して答えを出すことには長けていますが、適切な問題を設定するのはやはり人間です。それに、AIの回答は『なぜその答えが出たのか』が分からない、いわばブラックボックスになりがち。なぜその予測になったのか、なぜその配送ルートが最適なのか。現場が納得して動くためには、その根拠を説明し、腹落ちさせるプロセスが不可欠です。数理技術者の役割は、単に計算することから、AIと現場の橋渡し役、あるいはAIが解くべき問題を定義する役割へと変化していくのではないでしょうか」

長年数理技術の世界に身を置きながら、「この仕事に飽きることはない」という青山。それはビジネス環境の変化や技術の進化に合わせ、数理技術の活躍するフィールドが広がり続けているからでもある。

数理技術部では現在、製造・物流といった既存の領域を超えた分野に目を向けている。例えばマーケティングにおける「適切な価格設定」や「新商品の需要予測」といった新しいテーマ。さらに紙資源の廃棄を減らすための印刷部数最適化や、公共交通機関のダイヤ最適化で環境問題に貢献するなど、数理技術を活用できる領域は無数にあるのだという。

さらに青山の夢は地球を飛び出し、究極のフロンティアをも捉えている。

「宇宙開発が進めば、月や火星との間で物資を運ぶ『宇宙のサプライチェーン』が必要になる時代が必ず来ますよね。そこでは、燃料や食料の無駄を極限まで削ぎ落とすための最適化技術が命綱になります。そんな未来を想像すると、すごくワクワクするんです。

数理技術はシンプルだからこそ古びない技術です。これからも、人類の進歩や未来の社会基盤を支え続けるでしょう。世の中がどう変化しても、私たちの技術は必ず生きてくる。今後、どんな新しい課題に挑戦できるのか楽しみです」

見えない場所で社会を支え続けてきた数理技術。その現場には、顧客との対話を積み重ね、粘り強く伴走する数理技術担当者の、人間らしい情熱がある。現場で磨き上げられたその技術は、やがて宇宙という極限のフィールドでも、人類の営みを支える力となるかもしれない。

「自信を持つのも大事だが、過信やおごりにつながらないように。まだまだ吸収することはたくさんある」 と青山は語る。
「謙虚」の文字を掲げる青山

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