デジタルセールス最前線! openpageとキヤノンMJが描く営業DXの羅針盤
2025年12月12日
生産年齢人口の減少や専門的なノウハウの継承不足などにより、営業力低下が懸念される日本企業。10〜20年後を見据え、組織全体の営業力を底上げし、さらなる成果と生産性向上を追求していくため、営業DXによる変革が求められている。
株式会社openpage(以下、openpage)代表取締役の藤島 誓也さんは、お客さまの成功を継続的に支援する「カスタマーサクセス」に着目。この手法が受注前の商談でも活用できることに気付き、営業プロセスそのものをデジタル化する「デジタルセールス」の必要性をいち早く提唱してきた。そんな藤島さんに、営業DXを支援するopenpageの取り組みと、資本業務提携を結ぶキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)との共創を通じて目指す、営業の未来について聞いた。
営業DXが進む背景と課題
─まずは、藤島さんのキャリアとopenpage立ち上げまでの経緯を簡単に教えてください。
キャリアのスタートは、行動データなどを活用したデジタルマーケティングに携わるエンジニアでした。人を動かすとはどういうことなのかを考えるようになり、データの裏にあるコンテンツやコミュニケーション領域を追求したいという思いから、法人営業に携わるようになりました。
米国流の思考などをキャッチアップしつつ営業キャリアを積む中で、特に注目したのが「カスタマーサクセス」でした。カスタマーサクセスとは、自社の製品やサービスを通じて、お客さまの成功を実現するための継続的な営業の在り方です。課題化してから対応する受動的な支援ではなく、課題化する前に能動的に支援することで、お客さまの目標達成と自社の成長を同時に実現することを目指します。
私は、当時在籍していた会社で、このカスタマーサクセスを取り入れた営業の専任チームを立ち上げ、日本でいち早く実践してきました。そこで得たノウハウや仕組みをソリューションとして提供し、価値共創のパートナーとなってお客さまの営業DXを支援するために立ち上げたのがopenpageです。
─営業DXを支援されている中で感じる課題などを教えてください。
多くの日本企業が導入している「Sales Force Automation(営業支援システム。以下、SFA)」は、営業活動を記録・可視化し、営業の効率化や情報共有を推進するための有効な手段です。ただ、そのデータが営業改善に活用できていない、データ入力の負担感から入力・蓄積される情報にばらつきが出てしまうなどの事情により、SFAの導入自体が目的化してしまったり、形骸化してしまったりするケースもあります。
特に、ここ数年、大手企業を中心に「せっかく営業DXを進めても、トップセールスやベテランの『匠の技』に頼る状況から抜け出せない」「ベテランから若手へ、営業に必要な専門知識や、経験からくるノウハウがうまく継承されていない」という声をよく聞きます。
ベテランが持つ「お客さまに何を・いつ・どう伝えるか」といった勘所は、経験からくる属人的な性質が強く、その多くはナレッジ化されていません。その上、営業に必要なスキルやノウハウは複雑で多岐にわたるため、一朝一夕で身につくものでもありません。結果として、ベテランの営業力は維持されている一方で、若手の営業力や育成には大きな課題があり、世代交代が進みにくい・組織全体の営業力が低下するなどの懸念が生じているのです。
─その背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少という社会的な課題もあるのでしょうか。
生産年齢人口の減少による影響は、もはや「将来の課題」ではなく、既に出始めています。人材採用にも暗い影を落としていますし、加えて、若手の営業志望率は下がり続けています。このままの状況が続くと、ベテラン層が引退する10〜20年先には、企業成長の鈍化や停滞など、さまざまな課題が顕在化するでしょう。そうした将来への不安を抱く企業は多いです。

営業DXで商談のコミュニケーションを可視化し、「匠の技」を継承していく
─openpageでは、そのような「将来の営業活動に対する不安」を払拭し、営業DXによる商談プロセスの効率化を推進するために「デジタルセールス」を掲げていますね。
はい。デジタルセールスとは何か。一言で言えば、「営業プロセスの透明化」です。顧客と営業が、同じ情報を、同じタイミングで、同じ画面で見る。この「眼前での可視化」が、営業の属人性を解消します。そして、それを具現化するソリューションが、クラウド型の営業支援プラットフォーム「デジタルセールスルーム」です。
─デジタルセールスルームについて、もう少し詳しく教えてください。
営業担当者は、デジタルセールスルーム上に商談ごとのウェブページを作成し、営業プロセス、提案資料、議事録などの情報をまとめて格納・管理します。必要な情報はお客さまとも共有し、提案を確認・整理・検討しながら、丁寧に合意を形成していける環境を整えることができます。この環境のもと、お客さまと営業が同じ情報を見ながら商談を進める手法を「眼前可視化営業」と呼んでいます。
例えば、「お客さまがどの提案を何回見たか」「何分間見られていたのか」といった詳細なデータから、提案に対する「興味の深さ」「検討の温度感」などが可視化されます。次工程へのステップアップや提案の修正といった、より的確なアプローチが可能になるはずです。
─お客さまとのコミュニケーション改善につながりますね。
はい。また、営業プロセスを含めたあらゆる情報が一元管理されるため、トップセールスやベテランが無意識にやっているコミュニケーションが、組織の知見として蓄積されていきます。営業の属人化が解消され、再現性が生まれ、若手へのスキル継承や世代交代がスムーズに進んで組織の営業力の底上げが期待できるでしょう。
─営業の「匠の技」を継承していくイメージですね。
その通りです。日本の営業には、改善点を見つけながら徐々に営業成果を積み上げていく営業手法や、(ドライな欧米の営業に比べて)丁寧なケアや気配りといった強みがあります。特に、扱う製品・サービスに限らず、お客さまに役立つ情報を幅広く提供し、その積み重ねで信頼関係を築く、いわゆる「ギブ(与える)」を重視するのは日本の営業の特長とも言えるでしょう。
そうした日本における営業の価値は、今後も継承していきたいです。ベテランのノウハウや従来の営業手法の中にある価値をナレッジ化して組織の財産にしながら、組織全体で営業の質を上げていくのが、私たちが支援する営業DXのスタンスです。
キヤノンMJとの共創で挑む営業DX
─営業の「匠の技」を継承しながら、デジタルセールスに基づいた次世代の営業を創っていくため、キヤノンMJと資本業務提携をされたと伺いました。提携に至ったきっかけと、どのような取り組みを進めているのか教えてください。
キヤノンMJさんも、就労人口減少に伴う課題に強い危機感を持っていました。今後、従業員の人数が減っても成果を出せるよう、新たなDXの取り組みやソリューション開発を推進するソリューションデベロップメントセンターでは、より高い生産性につながる営業DXを模索されていました。
その過程で責任者の方と出会い、継続的にコミュニケーションを重ねていく中で、キヤノンMJさんの「営業DXによる自社の変革を通じて、お客さまにもその価値を届けたい」という熱い姿勢に強く共感し、資本業務提携に至りました。
この提携により、デジタルセールスルームをソリューションデベロップメントセンターで導入いただくとともに、キヤノンMJさんが培ってきたノウハウやネットワークを組み合わせて改善を重ね、新たなソリューションを共同開発しています。さらに、多くの企業の営業DXを支援すべく、市場展開もしていく予定です。
─デジタルセールスルームを導入したソリューションデベロップメントセンターでは、どのような成果が出ているのでしょうか。
「お客さまの目標達成を支援できた商談プロセスを標準化し、若手からベテランまで、質の高い提案を進められるようになった」「お客さまの行動が見えるため、次の打ち手が明確になった」「案件決着までの期間が短縮した」といったフィードバックをいただいています。また、一例ですが、業務工数が約1/10に削減されたり、アポイントから初回商談への遷移率が1.5倍になったりと、数字にも成果が表れています。
openpageがキヤノンMJと描く、日本の営業の未来
─キヤノンMJとの共創を通じて、どのような営業の未来を目指したいですか。
現実問題として、特に大企業の営業変革は、多くの事情や立場が入り組み一筋縄ではいきません。「キヤノンMJでの導入を経て改善を重ね、市場展開していく」というプロセスは、キヤノンMJさんの先駆的な体験をベースに、他社の営業DXを後押ししていくことができる。つまり、日本の営業変革を進める上での大きな力になると考えています。
さらに、これからの営業を背負っていく若い世代の変化も、変革を後押しします。彼らは、無意識のうちにアルゴリズムやデータによる最適化に常に触れてきました。嗜好に合わせた情報が届くのが当たり前のデジタル社会で育った彼らにとって、データやパーソナライズを無視した画一的な営業スタイルは、もはや好まれません。しかも、そういった若い世代の価値観の変化は、営業側だけでなくお客さま側にも同じように起きていると考えるべきです。
例えば、米国では、ミレニアル世代・Z世代が意思決定に関わるようになると、電話を避ける、対面を好まないといった傾向が強まるとの報告があります。そこでは、非対面かつパーソナライズを進めやすいデジタルセールスの重要性が高まるでしょう。日本ではまだ本格的な議論には至っていませんが、遅かれ早かれ同じ流れが来ると思います。
私たちは、キヤノンMJさんと共に、そのような変化に対応しながらできるだけ早く営業の新しい価値や在り方をつくっていきます。目指したいのは、「営業が好きだ」と胸を張って言える若手を増やしていくことであり、これは社会的な使命だとも捉えています。「営業って面白い!」と思ってもらえる未来を築いていきたいです。
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