このページの本文へ

「交通空白」の課題に挑む。DX支援で描く「誰も取りこぼさない」まちづくり

2026年8月19日

情熱の源泉

少子高齢化で、ドライバー不足や利用者減によるバス路線の減便・廃止が進むなど、地域の「交通空白」が大きな課題となっています。日々の買い物や通院に必要な“生活の足”をどう守るかは、安心して暮らせるまちづくりに欠かせないテーマです。

キヤノンビズアテンダ(以下、キヤノンBA)はこうした地域の困りごとに対し、交通DXを軸としたアプローチで交通空白の解消に挑んでいます。今回スポットを当てるのは、自治体・地域DXサービスを担当する新沼結香。

新沼が大切にしているのは、「そこに暮らす人々の声」に耳を傾け、机上で扱うデータだけでは決して見えてこない生活の実態を探ること。自らの足で現場を歩き、住民に寄り添いながら交通空白解消に取り組む新沼の、情熱の源泉に迫ります。

暮らしに不可欠な移動手段が失われる。交通空白が地域にもたらす不便と不安

キヤノンBA BPOサービス第一本部 新沼 結香
笑顔で語る新沼

そもそも「交通空白」は、地域住民や観光客が「移動の足」を確保することが困難な地域や状況を指しますが、明確な定義はなく、都市部では「駅から500m以上、バス停から300m以上」、地方では「駅から1km、バス停から500m以上離れた地域」などと言われています。ただ、各地の自治体と向き合い、住民の声を聞いてきた新沼は、その実態はより複雑だと語ります。

「たとえ家の近くにバス停があったとしても、1日に3便しかなく『ちょっと買い物に出ただけで、帰りの便まで2時間待たされる』など、生活上の不便が生じている状態であれば、それは交通空白です。特に、これまで自家用車での移動を前提に暮らしてきた方々にとって、免許返納による実質的な移動手段の喪失は死活問題。ご高齢の方の中には『どこにも行けなくなるから免許を返納できない』という方もいて、移動手段の担保が暮らしの安心に直結していると痛感します」

一方で、公共交通を提供する側も深刻な課題を抱えています。

「運転手の高齢化や深刻な担い手不足といった問題に加え、利用者が少なく収益を維持できないため、減便せざるを得ないケースが多いです。これにより利便性が低下し、さらなる利用客の減少を招く“負のスパイラル”に陥っています。その結果、マイカーを持たない高齢者や学生など、交通弱者の日常の移動手段が奪われ、通院や買い物すら困難になる地域が急増しているのです」

現地調査からコールセンター運用まで。交通DXを一気通貫で支えるキヤノンBA

手ぶりを交えて語る新沼

こうした危機的な状況を受け、政府は交通空白を2030年までに解消する目標を掲げています。国土交通省は令和7~9年度までの3年間を「交通空白解消・集中対策期間」と位置づけ、「『交通空白』解消・官民連携プラットフォーム」を設立して国を挙げた対策に乗り出しました。キヤノンBAもこのプラットフォームに参画し、自治体とのネットワークを築きながら、持続可能な地域交通の実現に向けて伴走しています。

「私たちは、公共交通計画の策定支援から実態調査、そしてライドシェアや自動運転など地域にとって最適な交通システムのご提案、さらに導入や導入後の運用支援まで、一気通貫でご支援しています」

特に交通空白が生じやすい小規模な自治体では、こうした一気通貫の支援が不可欠だと、新沼は語ります。

「小規模な自治体では、一人の職員の方が複数の業務を掛け持ちしているケースが少なくありません。そのため、『国の支援制度や最新のデジタル技術に関する情報にアクセスして、積極的に交通空白に対する施策を企画・立案する』『地域の方の理解を得て導入へ動き出す』などにリソースを割くことが難しいのです。一気通貫でご支援できるという私たちの強みは、そうした自治体に向けてこそ、より発揮できると考えています」

それは、導入後の運用についても同様です。現在、ライドシェアや自動運転といった新しいモビリティサービスの多くは、スマートフォンなどのデジタルデバイスを通じて予約や配車を行うことが前提となっています。しかし、特に高齢者の多い地域では、スマートフォンを持っていない方や、新しいデジタルサービスの操作に不安を覚える方も少なくありません。

「交通空白にお困りの方が新しい交通サービスを活用できるよう、導入後のフォローは不可欠です。そこで、新しい交通サービスを展開する際には、電話での予約受付や問い合わせにきめ細かく対応する専用窓口を設置するなど、誰もが安心して利用できる運用体制の構築までカバーしています。これまでBPOやコールセンター運用のノウハウを培ってきたキヤノンBAだからこそ、しっかりと伴走できるのが私たちの強みです」

現地を歩き住民の声を聞くことで見えてくる、本当のニーズ

語る新沼の横顔

現在、新沼は愛媛県宇和島市や徳島県海陽町などで、「地域公共の交通リ・デザイン」プロジェクトのメンバーとして活動しています。

「地域の実情や住民ニーズの変化に対応し、持続可能な公共交通ネットワークを再構築する取り組みです。 自治体の公募事業に参画するための入札参加資格の申請といった事務手続きから、現地に何度も足を運ぶ実地調査、集めたデータの分析や提案資料の作成まで、関わる領域は多岐にわたります。全体に関わらせていただいているからこそ、地域の方の声を提案に生かしたり、運用面での課題を先回りして考えたりすることができると感じています」 

いまでこそプロジェクトを力強く推進する新沼ですが、当初は「つまずきを感じることも多かった」と話します。

「当初は、自治体の方に納得いただける提案がなかなか作れませんでした。どうしてうまくいかないのかチームで話し合い、見直す中で気づいたのは、東京のオフィスでデータや地図だけを見て、その地域の実態を『わかったつもり』になっていたことだったんです」

そこで新沼たちは、いきなり提案を考えるのではなく、まずはその地域に深く根付き、地域の方々との関係も深い地元企業とタッグを組むことから始めることにしました。

「例えば宇和島市では、地元で長く愛されているケーブルテレビ局などと連携体制を組んでいます。地元企業にパートナーとなっていただくことで、実態に即した提案をするために不可欠な生きた情報や、地域のキーパーソンとのネットワークを得ることができました。地元の公共交通事業者から反発を受けることもなく、互いの不足を補い合うような前向きな仕組みづくりを進められたのも、地元企業の伴走があったからこそだと思います」

さらに新沼は、自ら現地を歩き、住民の声を聞くことで、地図だけでは読み取れなかったさまざまな課題が見えてきたといいます。

「例えば、地図上では住宅地からバス停まで50mほどしか離れていなくても、実は高齢者が歩くには困難な上り坂であることに気づくなど、さまざまな発見がありました。『足を怪我しているとき、坂を上れなくてバス停までたどり着けず、やむを得ずタクシーを呼んだ』などの切実な声も、現地で初めて伺うことができたんです。また、たとえコミュニティバスが運行している場所でも、住民にとって必要なスーパーや病院への直通ルートになっておらず、不便なので利用者が少ない、などの課題があることなどにも気づけました」

以来、実地調査では机上のデータだけに頼らず、自ら現地を歩き、住民一人ひとりの声を聞くことを大切にしているという新沼。スーパーの前で声をかけたり、ときにはお宅を一軒一軒訪問したりと、地道なヒアリングを重ねています。

正解は一つではない。地域ごとに異なる交通課題と向き合う

手ぶりを交えて語る新沼

地域住民の声を聞くほどに見えてくるのは、「交通空白の課題に決まった正解はない」ということだという新沼。

「人口規模が同じでも、その地域の特徴や住民の暮らしによって交通課題は変わります。それどころか、同じ自治体の中でも、海沿いか山間部かなど、エリアによって必要とされる解決策は違ってくるんです」

その象徴的な事例が、前述の愛媛県宇和島市における支援です。

「調査の結果、宇和島市のある地区は道が開けており、観光ルートや道の駅などがあるため観光需要も期待できることがわかりました。そこで、『グリーンスローモビリティ』(時速20キロ未満で走る自動運転車両)を導入することで、移動手段の確保と同時に観光客誘致による地域経済活性化が見込めると考えたのです。

一方で、同じ宇和島市内であっても、交通量が多く渋滞が懸念される中心部には、自動運転は適していないと判断。むしろ週末の夜間にタクシーの配車が不足することがわかり、その課題に対してライドシェアの導入をご提案しました」

自動運転プロジェクトには、自営5G(企業や自治体などが独自に構築・運用できる専用の5Gネットワーク)やWi-Fi7などの先進的通信システムを活用し、最先端のモビリティサービスを支える通信環境を整備する計画も組み込みました。平時には地域の生活や観光需要も支えつつ、災害時には地域を守る命綱になる、強靭なインフラモデルです。これは「過疎地区における自営5GとWi-Fi7の自動運転・防災等への活用」として、2026年4月に総務省の「地域社会DX推進パッケージ事業」における実証事業(先進的通信システム活用タイプ)に採択されています。  

「総務省の支援を受けて先進的ソリューションの社会実証を行うこの取り組みは、まだ始まったばかりですが、実用化できれば自治体支援における強力な武器になるはずです」

こうした事例から得られた知見を、別の地域へどう応用していくか。地域ごとに異なる課題を見極めつつ、他の自治体にも広げられるモデルをつくっていくことが、キヤノンBAの次なる挑戦です。

「不便でも、愛する土地を離れたくない」――そこに暮らす人々の想いに寄り添う課題解決を

キヤノンBAは今後、小規模な自治体に対する交通空白解消に向けた支援の拡大を検討していく方針です。

「この仕事に携わるようになって、私自身の考え方も変わりました。以前は、『コンパクトシティ(便利な駅前や中心市街地に生活機能を集約させた小さくまとまった街)』の考え方に共感し、『みんなで便利な土地にまとまって住めばいいのでは』と考えていたんです。でも実際に地域に暮らす方の話を聞くと、『思い入れのある土地だから、ここにずっと住みたい』『都会の人から見たらすごく不便に映るかもしれないけれど、私はこの土地が好き』とおっしゃる方が多くいらっしゃいました。もちろん年配の方だけでなく、若い方でも、都会との2拠点生活をしながらでも家族から継いだ家を守りたい、という方もいらっしゃいます。

外から見れば不便に思える場所でも、その場所を愛している人がいる。そうした方たちのためにも、交通空白の課題を解消したいと、いまは強く思います」

交通空白の解消とは、単に移動手段を整えるだけではなく、その土地で暮らし続けたいという人々の願いを支えることでもある――新沼の情熱は、そんな想いから生まれています。だからこそ新沼の目標は、目の前の課題解決にとどまりません。

「交通空白解消に向けた支援を通じて、資金や人員不足に苦しむ自治体の多さを実感しました。今後は交通DXにとどまらず、行政や地域が抱える困りごと全体の解決にも幅を広げ、より深く伴走したいと考えています。そのためにも、まずは自分自身がプロジェクトを力強くけん引できるプロジェクトリーダーへと成長していきたいです」

誰もが安心して暮らし続けられる未来のまちづくりへ向けた新沼の挑戦は、これからも続いていきます。

「一方的な答えを示すのではなく、相手の想いや事情を受け止めながら、一緒によりよい形を考えていきたい」と語る新沼
「寄り添う」という言葉を書いたスケッチブックを掲げる、笑顔の新沼

本記事に関するアンケートにご協力ください。

2分以内で終了します。(目安)