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最先端の半導体製造装置で日本の未来を支えていく。超精密機械を扱うプロフェッショナルの想い

2025年8月8日

情熱の源泉

スマートフォンから人工衛星まで、私たちの生活に不可欠な半導体。日本の半導体産業は長い冬の時代を経て、現在は復活に向け、国を挙げて動き出している。そんな半導体の生産を支えているのが、高性能な半導体製造装置だ。

実はキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)では、最先端の半導体製造装置や計測装置などを世界各国から輸入し、国内企業への提案から納入後のメンテナンスまでを行っている。産業機器事業部 第一営業本部の田村 亮太は、半導体製造装置の営業を担当して10年のスペシャリスト。半導体製造プロセスや各製造装置についての深い知識に加え、グローバルなコミュニケーション能力が求められる難しい仕事に携わる。「大変なことが99%」と笑顔で語る田村の、プロフェッショナリズムと情熱の源泉に迫る。

再興の機運が高まる日本の半導体産業を、最先端の半導体製造装置で支える

私たちの生活は、半導体なくしては成り立たない。スマートフォンやパソコンをはじめ、家電製品、自動車、飛行機、医療機器、果ては人工衛星に至るまで、電気で動くほぼ全てのものには半導体が用いられている。生成AIや自動運転技術の進歩、データセンターの急増などを背景に、近年ではその重要性はさらに高まり、より微細で高性能な半導体チップの需要が急拡大している。そして高性能な製品をつくるためには、最先端の製造装置が必要だ。

「現代人は半導体製品に触れない日はないですし、多くのテクノロジーは、半導体の進化によってもたらされています。高性能な半導体の製造は、まさに未来をつくる仕事なんです」

キヤノンマーケティングジャパン 産業機器事業部 第一営業本部 田村 亮太

そう語るのは田村 亮太。2008年にキヤノンMJに入社して以来、一貫して半導体製造装置に携わってきた。現在所属する産業機器事業部 第一営業本部は、海外製の半導体製造装置を日本の大手半導体メーカーに提案・納入する、少数精鋭のプロフェッショナル集団だ。

日本の半導体産業は、1980年代後半には世界シェアの50%を超えていたが、その後長い間“冬の時代”を過ごしてきた。しかし近年では政府の後押しなどもあり、復活の兆しを見せている。日本政府は2021年からの3年間で、GDP比で先進国最大規模となる約4兆円を半導体分野支援に投じた。

「韓国や台湾、アメリカといった半導体先進国にはかなり水をあけられていますが、この機運に乗じて日本の半導体産業を再び盛り上げたいと強く思っています。半導体産業が伸びれば、テクノロジーの成長が加速して日本の産業全般も活気づき、日本経済全体が潤うでしょう。われわれもその一助となることができるはずです」

田村には、高性能な製造装置で日本の半導体業界を支えることを通じて、日本のテクノロジー進展の一端を担っているという自負がある。超精密機器であり膨大な専門知識が必要になる半導体製造装置の営業は、難易度の高い仕事。しかもキヤノンMJが扱うのは、海外製の最先端の装置でもある。世界中で採用され実績を挙げている実力のある装置ばかりで、国内メーカーの製品と比べても決して安価ではない。

「半導体製造装置の価格は、1台あたり数千万から数十億円。当然、現場の担当者同士で話が決まることはなく、部長や工場長、場合によっては社長クラスのお客さまを相手に営業活動を展開することになります。決して安い買い物ではありませんので、その場のノリやコミュニケーション力だけでは通用しないですよね。何年で原価償却できるのか、いくら利益が見込めるのか、生産性はどのくらい向上するのか……ロジックを丁寧に積み重ねて上層部にもメリットを説かなければ、絶対に買ってもらえません。非常に難しく頭を悩ませることも多いですが、だからこそ大きなやりがいがある仕事でもあります」

「大変なことが99%」異文化と言葉の壁にぶつかりながら、磨いてきた対応力

今でこそ半導体製造装置に精通する田村だが、入社当初は「半導体に関する知識はまったくなかった」という。

「もともと大学では光学系を専攻していて、キヤノンMJといえばカメラやプリンターの営業だろうというイメージを抱いて入社しました。しかし蓋をあけてみたら、配属先は聞きなれない産業機器事業部。それまで、キヤノンMJが半導体製造装置を扱っているなんて知りませんでした」

キヤノンMJは半導体関連機器の“輸入商社”であり、かつ装置の設置からメンテナンスまでを行う“技術商社”でもある。田村が入社して最初に経験した職種は「フィールドエンジニア(FE)」。納品先の工場で装置のトラブルや不具合が起きたとき、現場に駆けつけて対応する仕事だ。大手メーカーの工場(クリーンルーム)ともなれば、数千万円から数百億円する製造装置がずらりと並ぶ。その中で全身を覆うクリーンスーツに身を包み、トラブル対応に追われる日々を過ごした。

キヤノンマーケティングジャパン 産業機器事業部 第一営業本部 田村 亮太

「半導体工場の多くは、365日24時間体制で稼働しています。装置が不具合を起こせば、工場の稼働が止まり、大きな損失になる。だからお客さまは、一刻も早く直してほしいと思っているわけです。特に若手の頃は経験が浅く、なかなか直せないケースもあり苦労しましたが、そうやって現場で鍛えられたおかげで、装置そのものはもちろん、半導体製造プロセスに関する知見も蓄積することができたと思っています」

田村は三重事業所と東京事業所でそれぞれ3年半、計7年にわたりFEに従事。その後、もともと営業志望だったこともあり、2016年に現在の営業部門への異動を申し出た。営業メンバーはほとんどがFE出身だ。現場で鍛えられ、半導体製造装置に関する深い知識を持った少数精鋭で、全国の顧客をカバーしている。

キヤノンMJが代理店契約を結んでいる装置メーカーは、全世界で10社以上を数え、1社につき多いところだと5機種以上の販売契約を結んでいる。営業担当は半導体製造プロセスを熟知した上で、機能の異なるそれぞれの機種についてしっかり理解していなければ、これらの装置を半導体メーカーに対して売り込むことはできない。


また、代理店契約を結ぶのは、尖った技術を持つ有望な中小規模の装置メーカーが多い。毎年、キヤノンMJの新規ビジネス推進部門が数千社から1万社におよぶ候補をリサーチし、リストアップした企業の中から特に有望と思われる半導体製造装置メーカーを厳選して審査し、年に1~2社と契約している。

「契約先企業の所在国は、アメリカ、イギリス、スイス、ドイツ、イスラエル、韓国などさまざま。主に英語で各メーカーの担当者とやりとりして、最新装置の情報などを提供してもらっています。商談の際は、半導体メーカーのお客さまを海外の現地工場までお連れすることもあれば、装置メーカーの担当者を日本に呼び、一緒にお客さまを訪ねてプレゼンを行うこともあります」

毎日のメールや電話会議も、当然英語で行われる。しかし田村は配属当初、「英語は全然できなかった」という。

キヤノンマーケティングジャパン 産業機器事業部 第一営業本部 田村 亮太

「英会話教室に通ったり、通勤中にリスニング学習をしたり、必死に勉強しました。まだまだつたない英語ですし、聞き取れないケースもありますが(笑)」

ただ田村は、各国のメーカー担当者と一緒にビジネスを進めていく中で、重要なのは語学力だけでなく“文化や国民性への理解”だと考えている。

「半導体製造装置ビジネスは、ご注文書をいただいてから納品までに1年以上かかるケースもあります。お客さまはその装置の納期に合わせて自社の生産計画を立てるため、装置の納期遅れは非常に大きな問題になります。特に海外製の装置でそういった問題が発生した場合、語学スキルに加え、柔軟な対応力と交渉力が求められます。各国の異なる文化で育った方々を相手にする訳ですから、日本人として当たり前の感覚が当たり前ではないことなんて、日常茶飯事です。それを上手くコントロールして結果を出すのは容易ではありませんが、やりがいの一つでもあります」

田村がこれまでに経験した“不測の事態”の中でも、特に忘れられない出来事がある。受注した5億円以上する大型装置の納品が、出荷2カ月前になって突然、装置メーカーから「数カ月遅れる」と連絡が入ったのだ。

「コロナ禍で部品のサプライチェーンが大混乱していた時期だったとはいえ、お客さまにとってそんな事情は関係ありません。当然お叱りを受けました。そこから少しでもリカバリーするために、装置メーカーと毎週ミーティングを開き、短縮プランの検討と進捗確認を進めながら、お客さまの担当部長に逐一、状況を報告しました。結果として、納期のリカバリーはある程度できたものの、当初お約束した納期からは遅れる形での納品となってしまいました。お客さまにとってはビジネス機会を逸しているわけですから、『完全に嫌われた。もう二度と買ってもらえないだろう』と思ったのですが、一段落した際に、担当部長が『田村君、よく頑張ってくれたね。ありがとう』とおっしゃって、その後同じ5億円以上する装置を追加で2台も購入してくださったんです。このお客さまには、今でも懇意にしていただいています。連絡を欠かすことなく、逃げずに誠意をもって対応したことを評価していただけたのだと思います」

「この仕事は大変なことが99%」と言いながらも笑顔を絶やさず、どんな話も冗談めかして語る田村。彼の芯の強さを象徴するようなエピソードだ。

「営業に向いていると思ったことは一度もない」常に自問自答、試行錯誤でお客さまと向き合う

営業担当になってから10年。これまでの仕事ぶりが評価され、今年課長に昇進した田村だが、「自分が営業に向いていると思ったことは一度もない」という。「“営業力”って何だろう、という疑問が常に自分の中にあります。明確に『これが営業力だ』と言えるものってないんじゃないかと思うんです。一般的に営業力といえば、“相手の心をつかむトーク力に長けている”とか、“プレゼン力”といったことが指標の一つとしてあるかと思いますが、営業はそれだけではない非常にマルチな能力が求められる職種です。特に私たちは海外の高額な超精密機器を複数取り扱うという性質上、専門的な技術知識やグローバルな対応力、大手企業の上層部にもご理解いただけるよう論理的にメリットをまとめる提案力が求められます。また、お客さまの課題やニーズもさまざまですから、それによって『刺さる提案』も当然変わってきます。だから私は、『今回は本当にこのやり方で合っているのか?』といつも自問自答し、日々試行錯誤しながらお客さまやビジネスパートナーと向き合っています。難しい仕事ですが、キヤノンMJでこういう類の仕事ができる部門も少ないと思いますので、産業機器事業部で仕事ができて良かったと思っています」

今は課長として若手を育て、部門全体の売り上げを拡大することが目標だという田村。最後に今後の意気込みについて聞いた。

「これからも日本にはない、海外の尖った技術を持つ装置をどんどん国内のお客さまにご提案して、日本の半導体産業を盛り上げていきたいと思っています。その一方で、日本製の優れた半導体製造装置を、海外の半導体メーカーに提案することにも挑戦したい。実はわれわれは、キヤノンMJが開発から携わった『MAS』という国産の半導体製造装置も取り扱っています。シリーズ累計1,200台以上が売れているヒット商品です。海外製品のみならず、国内のパートナー企業と連携して国産の装置開発にも積極的に取り組み、日本の技術を海外に広めていくような取り組みも考えていきたいですね」

どんなに困難な仕事も「絶対にやりきる」と覚悟を決め、その上で徹底して準備をする。「先輩から受け継いだ言葉です。壁にぶつかりそうになったとき、思い出して心掛けています」
「覚悟と準備」の言葉を掲げる田村

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