生存戦略としての「サーキュラーエコノミー」。不確実な時代を生き抜くための日本企業の勝ち筋とは
2026年4月24日
「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提とした直線的な経済モデル(リニアエコノミー)が限界を迎えつつある。地政学的リスクやサプライチェーンの分断が深刻化する現在、これまでよりさらに切実な危機感を持って欧州を中心に進んでいるのが、廃棄物を最初から出さず資源を循環させる「サーキュラーエコノミー(循環経済)」だ。
今回は、国内外のサーキュラーエコノミーの潮流に精通するCircular Initiatives&Partners株式会社 代表取締役の安居昭博氏にインタビュー。「サーキュラーエコノミーは単なる環境配慮の取り組みではなく、企業の生き残りをかけた生存戦略」と安居氏は語る。不確実な時代を生き抜くため、日本企業はサーキュラー型ビジネスモデルをどう取り入れるべきなのか。具体的な事例から、日本が秘めているという意外なポテンシャルまでを聞いた。
資源循環を前提にビジネスや製品をデザインする。生存戦略としての「サーキュラーエコノミー」
—まず、改めて「サーキュラーエコノミーとは何か」を教えてください。
サーキュラーエコノミーとは、「製品やビジネスの設計段階から工夫し、同じ資源を循環させて繰り返し使うことで、廃棄物をほとんど出さないようにする経済システム」です。資源を循環させることで輸入などに極力頼らず経済を回せるようになり、環境に良いだけでなく、経済的にも、安全保障の面でもメリットがある、新しい経済システムとして期待されています。
—これまでも「リサイクル」や「アップサイクル」という言葉はありましたが、それらとは何が違うのでしょうか。
従来のリサイクルやアップサイクルは、ゴミになってから活用先を考える、いわば「対症療法」でした。しかし世の中の製品の80~90%は、設計段階ですでに「使用後はゴミになること」が決定づけられており、事後的なリサイクルには限界があるといわれています。例えば廃棄物を他の何かに作り替えても、それがまた捨てられてしまうのなら「廃棄の先延ばし」に過ぎません。そうではなく、設計段階で「回収し、資源として活用する」ことを前提とした製品づくりやビジネスモデルの構築をするのがサーキュラーエコノミーの考え方です。
—最近、「サーキュラーエコノミー」という言葉を聞く機会が多くなったと感じますが、注目されるようになったのはなぜでしょう。
最初の契機は2008年のリーマンショックでした。この時、多くの企業が国外から調達する安い資源に頼らなければビジネスが回らない「リニアエコノミー」のリスクを痛感し、欧州の企業が中心となってサーキュラーエコノミーの仕組みづくりが進んだといわれています。
地政学上のリスクが高まり、サプライチェーンの分断が深刻化する現在、サーキュラーエコノミーの注目度は当時よりも増しています。国外の資源に依存するビジネスモデルから脱却し、自立性を高めることこそが企業のレジリエンス(困難な状況での耐久力・回復力)につながるとして、サーキュラーエコノミーは企業や国にとって不可欠な「生存戦略」になりつつあると思います。
製品設計、人材活用……あらゆる面でビジネスのあり方が根本から変わる
—具体的には、どのようなビジネスモデルの転換が起きているのでしょうか。
オランダのとある照明器具メーカーの例が象徴的です。従来のリニアエコノミーでは、照明を使用したい企業や一般消費者は照明器具を購入し、使用後は廃棄します。メーカーがこのビジネスを続けるためには、常に新しい原材料を調達して製造し続けなければなりません。
しかしこのメーカーはサーキュラー型のビジネスモデルを導入し、照明器具を販売ではなくリースで提供しています。メーカーは顧客から返却された器具を修理・メンテナンスし、また次の顧客に貸し出すというビジネスです。
—「所有から利用へ」という変化ですね。ただ、単にリースにするだけで循環は成立するのでしょうか。
そこが重要なポイントで、単に既存品をリースするのでは、サーキュラーエコノミーにはなりません。多くの企業は修理を前提とした製品づくりをしておらず、どこかが壊れてしまった場合、丸ごと処分せざるを得ないからです。その点この照明器具メーカーは、リースというビジネスモデルに合わせた「修理できる製品」を製造しています。
サーキュラーエコノミーにおいて重要なのは、回収することを前提に、メンテナンスや部品交換がしやすい「サーキュラーデザイン」が最初から実装されていること。ビジネスモデルと商品設計がセットになって初めて、システムとして機能するんです。
—リニア型からサーキュラー型への切り替えには、資源調達リスクの回避以外に、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
一つは「イノベーションの促進」です。従来のリニア型では、技術的には長寿命な製品を作れる可能性があっても、実現しようとする力が働きづらかった。売上を上げ続けるためには、顧客に一定期間で新たな製品を買ってもらう必要があるからです。
しかしサーキュラー型では、故障なく長く使い続けてもらった方が修理コストを抑えられ、利益につながります。つまりメーカーは、耐久性が高く修理しやすい製品を作る方向へ技術力を発揮できるのです。
もう一つは「人材活用」です。例えば「修理しやすい」「壊れにくい」ものを作る能力を持った人材は、リニア型ビジネスでは活躍の場が少なかったかもしれませんが、サーキュラー型ビジネスにとっては不可欠です。いま、国内外を問わず人材不足が問題になっていますが、こうした新たな軸で人材開発をすることで、企業が活用できる人材の幅も広がるのではないでしょうか。
サーキュラーエコノミーは、ビジネスの考え方や前提を根本から変えるものです。他にもあらゆる面で、考え方が変わることで新たな価値が見いだされるものがあると思います。
サーキュラーエコノミーには、どんな業種もビジネスチャンスがある
—日本国内でも、こうした転換の動きは始まっているのでしょうか。
国内でもさまざまな企業がサーキュラー型ビジネスに取り組んでおり、自社完結ではない、業種の壁を超えたパートナーシップの事例も多いです。ある業界の廃棄物が、別の業界にとっては宝の山になることもあります。
例えば、マヨネーズの工場からは通年、大量の卵の殻が廃棄されますが、コストをかけて捨てていたこの殻に建材メーカーが着目し、高い調湿機能を生かして壁材などへ生まれ変わらせています。また、使用済みスニーカーを自社製品限定で回収し、再生材を抽出している靴メーカーの事例もあります。その再生材は「由来不明の物質が混じっていない、高品質な資源」とみなされて高付加価値がつき、自社だけでなく高級家具メーカーでも活用されています。このように複数社が手を組むことで、資源循環はより広がります。
—サーキュラーエコノミーの主役は、やはりモノづくりをしている企業なのでしょうか。
そんなことはありません。前述のように資源循環は1社で完結しない場合も多く、循環の仕組みをつくるには非製造業の役割も重要になってきます。
例えば、とある地方銀行は、店舗に古着の回収ボックスを設置し、地域の古着店や市民を巻き込んで循環の仕組みをつくっています。これは物理的な場所を提供している例ですが、こうした場が増えて「モノの手放し方の多様化」や「修理の多様化」が進めば、「気持ちの良い手放し方」を提供するためのマーケティングも重要になってくるでしょう。
他にも、物流企業であれば「回収」の仕組みをつくる、IT企業であれば欧州で始まっているDPP※のように製品履歴を管理する仕組みやデータの利活用に携わるなど、関わり方は多岐にわたります。非製造業の企業にとっても、サーキュラーエコノミーには新たなビジネスチャンスがたくさんあると思います。
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DPP=Digital Product Passport(デジタル製品パスポート)。製品ライフサイクルのあらゆる段階(製造、配送、使用、廃棄など)で製品に関する情報を記録し、資源循環性や製品の信頼性を高める証明データに誰もがアクセスできる仕組み。EUではサーキュラーエコノミー構築のため、一部製品から対応義務化が始まっている
日本には、世界をリードするポテンシャルがある
—日本企業にとって、まだまだサーキュラーエコノミーに取り組む余地は大きそうですね。
はい。私は、日本には世界のサーキュラーエコノミーをリードするポテンシャルがあると思っています。
例えば日本には「金継ぎ」など、壊れてしまったモノを直して付加価値をつける手法が根付いています。「金継ぎ」のコンセプトは世界から注目されていて、器のみならず、回収した衣服やシューズをリメイクして付加価値を生み出すことが欧米で「Kintsugi」と呼ばれています。かつて「もったいない(MOTTAINAI)」という言葉が世界的な注目を集めたように、「Kintsugi」の精神が世界のサーキュラーエコノミーを牽引するかもしれません。
さらに、サーキュラーな仕組みの導入によって、現実的な資源問題にも希望が見えてくると思います。日本は「資源がない国」といわれ、ハイテク製品を作るために不可欠なレアメタルを大量に輸入してきましたが、その結果、私たちの身近な機器の中に眠っているレアメタルの量は世界有数の規模になっているといわれています。これらを回収・抽出・活用する仕組みが整えば、日本は一躍、レアメタル大国になれるポテンシャルを秘めているのです。
—最後に、これからサーキュラー型ビジネスに取り組む企業へのメッセージをお願いします。
大切なのは「長い目で見ること」です。サーキュラーな仕組みを構築するには、製品を回収するための物流網の整備や人材育成、他社との提携など、初期投資と時間が必要です。サーキュラー型ビジネスはリニア型と比べ短期的な利益を確保しにくいので、リニア型と同じ指標で判断すれば、せっかくのイノベーションの芽を摘んでしまいかねません。企業で経営的な判断を下す立場にある方々には、ぜひ経済的利益以外のメリットも含めて中長期的に評価してもらいたいですね。
私は、一挙に全てのビジネスをサーキュラー型に転換すべきだとは思っていません。短期的な利益を確保するリニア型ビジネスと、中長期的に持続可能で自立したサーキュラー型ビジネスをバランスよく編成する。国としても企業としても、そうしたポートフォリオを持つことが、不確実な時代を生き抜くための真の生存戦略になると思います。
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