若者の界隈消費とは?
report13


近年では趣味嗜好にもとづいてゆるくカテゴライズされた集団が「界隈」と呼ばれ、
「界隈」ごとに異なるトレンドも誕生しています。
界隈への帰属意識やアイデンティティはしばしば消費行動と結びつく傾向から、
「界隈消費」と呼ばれる消費行動も発生しています。
特にZ世代においては消費傾向を語る上で外せない要素の一つともいわれており、
企業活動においても属性だけではない顧客の捉え方が改めて重要になっています。
今回は若者の界隈消費を紐解くことで、未来につながる“ヒント”を探ります。
そもそも実態って?界隈消費に関するリアルなエピソード
まずは界隈消費の現状を把握するために、今回のワークショップ参加者である大学生11名の日常や購買行動を振り返りながら具体的なエピソードを調査しました。一部エピソードを紹介します。
- 大学生Aさん:KPOP界隈
- 腕時計自体に興味はないけど、好きなグループとの限定コラボモデルが発売されたことをきっかけに約2万円かけて衝動買い。購入後は界隈仲間へ共有したり部屋に飾ることで愛でる!
- 大学生Bさん:自然界隈※1
- 自然豊かな場所でファッションと一緒に撮影するために、スマホにはない心地よいノイズ感によってどこか懐かしさを感じられる画質で撮影できるオールドコンデジの購入を検討していた。でも調べていくうちに自分の求める条件から選択肢が変わっていき、最終的には当初全く検討していなかったデジカメを購入した。
- 大学生Cさん:ぽこぽこ界隈※2
- 海外の画像・動画加工アプリを約4,000円/年で利用中。顔やスタイルをよく見せるためだけでなく、界隈特有の加工をするために界隈内の有名な人と同じアプリを使いたい。界隈消費は界隈ごとにお手本になる存在がいるので安心して消費活動できる点がいい。失敗したくない!
- 大学生Dさん:グルメ界隈
- 相手によって行くお店の系統はさまざまだけど、自分にとっては界隈消費≒交際費だと気づいた。今までは界隈にすら属していないと思っていたけど、振り返ってみると結構しっかりと、グルメ界隈での界隈消費をしていた…!
- 大学生Eさん:編み物界隈
- インフルエンサーきっかけで界隈に興味を持つ人もいるけど、自分は屈強な男性が編み物をしている意外性に惹かれて編み物を始めたので界隈消費は憧れだけではないと思う。最近はリップクリームケースを制作したけど、普段リップクリームは使わないのでケースのために後日購入した。
- 大学生Fさん:古着界隈/映画界隈
- 旅行で訪れたヴィンテージショップで、好きな映画の着用Tシャツと同じデザインのものと遭遇。いまを逃したら買えないと感じて、約6万円と高額だったが購入。さらに今度はその服に合う靴が欲しくなっていき、界隈消費ってどんどん連鎖していると思う!
- 大学生Gさん:筋トレ界隈
- 細身体形で悩んでいたところ、界隈情報で最適なプロテインに出会って購入。今では定期購入するほどお気に入りに。界隈消費は「好き」だけではなく「悩み」や「共感」といった気持ちでも購入に至る。
-
※1
緑豊かな公園や、海や川、山などの自然スポットを好んで訪れる人のこと。
-
※2
特定のBGMを使用して制作した動画をSNS上で発信している人のこと。何気ない日常の1シーンをおしゃれに編集・加工した動画が多く、トレンド性の高いアイテムも動画内で知ることができるため、若年女性層を中心に共感を得ている。
ichikara Lab提唱!購買行動モデル「ISEACP」
参加者の具体的なエピソードをもとに深堀しながら、若者の界隈消費における消費活動を分析しました。界隈消費=興味関心ごとに関する消費は前向きな心理状態であった一方で、使えるお金は限られるという現実から購入に至るまでには学生らしい葛藤も発生していました。今回は自分なりの優先順位づけや葛藤を乗り越えて購入に至ったケースをモデル化し、若者の界隈消費における新しい購買行動モデル「ISEACP」を提唱します!
-
Influence(影響・認知):SNSの投稿やレコメンド機能、周囲の口コミから受動的に認知することをきっかけに興味を持つ
- 隙間時間に見るショート動画での認知が多い。詳細を調べる必要はあるが、知るきっかけとして効果的である
- 元々は興味がなかったものも、界隈から派生したレコメンド表示によって何度も目にするうちに影響を受けて興味を持つようになる
-
Search(情報収集):特に興味を持った商品・サービスについて能動的に情報収集をする
- 身近な友人や界隈に詳しい知人の意見を聞くことで情報を集める
- インフルエンサーのフォローや検索・動画視聴など各種SNSで情報を「あさる」
- 仲の良い友人だと同じ情報を持つ場合が多いので、新しい情報はSNSで検索する。信頼できる情報が少ないときは、界隈内の配信者の動画を見て参考にする
-
Empathy(共感):自分なりの条件や気持ちにマッチするものか判断する
- 周囲の意見やSNS投稿、公式情報を調べた後に自分なりの条件(求めるスペックやデザイン・サイズ感などの好み)と照らし合わせて選択肢を絞っていく
- 入手した情報に自分をあてはめて必要なものかどうか、気持ちにあうものか検討する
- Action(購入):さまざまな場所で購入できるものは、販売チャネルも比較・選定した上でいざ購入!
-
Cherish(愛好):共有だけでなく部屋に飾る・写真に撮る・愛用するなど「自分なりの方法」で購入品を愛でる
- 単純な自慢や特典をもらうためにSNS投稿をすることもあるけど、購入品の良さや自分の気持ちを理解してくれる界隈内で共有したい
- 購入品は数回だけ使用した後、自室に飾っていつでも眺められる状態にする
- ゲーム等を大量買いする目的は一度に全て使うことではなく、購入品を部屋に積んで満足したいから
-
Propagation(進展・伝播):次の消費へ連鎖していく
- 自分が野球界隈なので観戦に行くが、野球ゲームを欲したりや筋トレをしたくなる。別界隈への伝播を感じる
- 何か購入するときは同じ数だけ所有品を手放すというマイルールがあるので、次の界隈消費に向けて手元にあるものを選別する
ポイントは共感。気持ちが伴う消費=界隈消費?!

そもそも「界隈」という言葉自体が広義で使われていることや、今回の参加者においては界隈への「強い」帰属意識がある人は少数派であったことから、若者の「界隈消費」の実態としては想像以上のあいまいさを感じる結果となりました。ただ若者にとっては「好きや悩みなど気持ちが伴う消費」や「財布の紐が緩むもの」がいわゆる「界隈消費」であり、「共感」が一つのポイントとなっていることが分かりました。オトナ世代にとってはトレンドである界隈消費を活用した取り組みを検討したくなりますが、現時点での界隈消費の解釈の「あいまいさ」を考慮しつつ、本質的なニーズやインサイトをより突き詰めることが必要かもしれません。
「若者の消費離れ」は、必ずしも当てはまらない?!

「若者が消費活動に消極的だ」と言われるようになって久しいですが、界隈消費=興味関心のある事柄への消費は前向きな消費心理状態であることが分かりました。数万円と高額な商品であっても衝動買いの事例も多数ありました。ただしいくら「財布OPENな状態」で新しい出会いを待っているといえども、使えるお金はある程度限られてしまうという現実から、交際費との比較による優先順位づけなど学生らしい葛藤も発生していました。その中でも晴れて購入に至ったものに関しては今回の提唱モデルに沿って行動や心理が遷移していることが分かりました。
従来のような買いきり型ではなくサブスクリプションサービスの利用といった購入のカタチに変化もありますが、購入後に消費が連鎖していく傾向もあるため、若者の消費活動をもっとポジティブに捉えてもよいのではないでしょうか。
衝動買いもするけど、ベースは入念な情報収集や自分なりの条件

好きや悩みといった気持ちによって共感できるものは財布の紐が緩みがちで、衝動買いやそれによる失敗談は多数ありました。その一方で、購入に至るまでには入念な情報収集や自分なりの条件による選定もしていました。「買い物で失敗したくない」と強く語る参加者もいて、身近な友人だけでなくSNSを通して大量の情報を入手できる現代だからこそ、界隈消費のお手本を見た上で安心して消費活動をしているのかもしれません。
「界隈」という言葉の捉え方
界隈消費をテーマにディスカッションする中で、「界隈」という言葉の捉え方についても調査しました。
普段の生活で実際に「界隈」という言葉を使っているのか?どんな定義で捉えているのか?など、学生のリアルな感覚に触れる中で出てきたエピソードを紹介します。
- 「界隈」とつけるだけでポップな印象になるから、〇〇キャンセル界隈のように「面白い表現」として使うことはある
- 言葉の定義もゆるいのでどんな界隈でも言葉として違和感はない
- 相手に対して○○界隈っぽいね!とか逆に○○界隈と言われることはあっても、自称はしない。自己紹介や初対面の人に対しては使わない言葉だけど、会話の中で共通点があれば○○界隈だねということもある
- すごく熱量がある人も、そうではない人も混在できるのが「界隈」。界隈への所属意識もないしアイデンティティとして捉えていないという人でも、SNS検索では「#〇〇界隈」を活用している
まとめ
参加者の中には当初「界隈消費といえる消費活動はほとんどしていない」と回答した学生もいましたが、そういう学生であっても議論を進めるうちに実は支出の多くを界隈消費が占めていたという気づきもありました。本人の意識に関わらず、「界隈消費」が若者にとって身近なものだと感じます。
オトナ世代の若かりし頃と比較すると、現代はSNSの発展により受動的に得られる情報が圧倒的に多く、少しの興味であってもレコメンドによる出会いなどから興味関心ごとを発見しやすい環境となっています。また、使えるお金が限られてしまう葛藤を抱える若者にとって、低価格店舗など利用しやすい購買環境があることも、「界隈消費のゆるさ」が生じる背景の一つではないでしょうか。
注目を浴びつつある「界隈消費」はまだまだ言葉の定義もあいまいではありますが、若者にとっては好きや悩みなどの気持ちが伴う消費であり、自身が興味関心を示す対象への消費心理は前向きであることが分かりました。次の消費にも連鎖していることから、若者の消費活動をポジティブに捉えてもよいのではないでしょうか。
workshop.13 概要
- 開催日
- 2025年3月14日
- テーマ
- 若者の界隈消費とは
- 課題
-
-
あなたが所属していると思う界隈を書き出してください。あなたの1か月のTTL支出(住居・電光熱費を除く)を振り返り、
界隈に影響を受けた支出や界隈に関連する支出の割合を教えてください。 -
新しい商品・サービスとの出会いや利用(購入)において界隈が影響したと思うエピソードを具体的に教えてください。
-
「界隈」「界隈消費」というキーワードで、あなたが興味深いと思う若者のトレンドやニュースを教えてください。
-
現代の若者に「界隈消費」がフィットしている背景や理由を記入してください。
-
- 形式
- 個別発表とグループディスカッション
- 開催場所
- オンライン
- 参加者
-
大学生11名・ichikara Labメンバー6名
ichikara Labへのお問い合わせ
ワカモノスタディ等の各種マーケティング活動に参加いただける学校・ゼミ・学生様を随時募集しています!