「安心・安全に荷物が届く」を実現し続けるために。ロジスティクス本部が挑む物流改革
2025年5月26日


私たちひとり一人の生活を支える社会インフラとして重要な役割を担う物流。近年、日本の物流業界は多くの課題に直面しており、物流を健全に維持するための変革が求められています。
実は、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)にも物流を担うロジスティクス本部という部署があり、さまざまな取り組みを行っています。どのような変革を進めているのか、千葉県浦安市にある、キヤノンMJグループ最大の物流拠点「東京物流センター」を訪ね、同部署の今井 佑さん、土谷 清子さん、高瀬 周次さんに話を聞きました。
物流の危機にどう向き合うか。ロジスティクス本部の取り組み

― はじめに、キヤノンMJロジスティクス本部の役割について教えてください。
今井:マーケティング企業の物流部門として、キヤノンMJグループが扱うあらゆる製品とお客さまをつなぐ役割を果たしています。具体的には、物流の「管理」「荷役※」「配送」を担い、調達・SCM(サプライチェーン・マネジメント)部門が仕入れた品を、全国5か所(札幌、仙台、浦安、大阪、福岡)の物流拠点で保管・管理し、注文に応じて、全国各地の個人や法人のお客さまのもとへお届けしています。内容は、デジタルカメラやプリンター、オフィス向け複合機やトナーといった主要なキヤノン製品のほか、海外メーカーのITプロダクト製品などさまざまで、約5000品目に上ります。

キヤノンオンラインショップでご購入いただいた個人のお客さまへのお届けはもちろん、営業を介した法人のお客さまのご注文、また家電量販店や販売代理店などへの配送も担当しています。主な家電量販店とはシステムを連携し、在庫が一定数を下回ると自動発注される仕組みとなっており、その発注を受けて商品をお届けする形です。
また、お客さまの方で不要になった機器や包装資材、製品容器の回収・再資源化も担い、キヤノンMJグループ全体で1日に約3万件の配送を行っています。
「安心・安全に荷物が届く」を実現し続けることを信条に、サステナブルなロジスティクスを提供することを目指しています。
― ここ数年、「2024年問題」など物流業界の抱える課題が話題となっていますが、そうした状況をどのように捉えていますか?

今井:物流業界が直面している課題の深刻さは、当事者として日々実感しています。
いわゆる「2024年問題」では、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限され、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離輸送が困難になるなどの課題が挙がっています。
そもそも業界全体で働き手が不足している問題もあり、シンクタンクによる試算では、「何も対策をしなければ、2030年に全国で約3割の荷物が運べなくなる可能性がある」と言われています。
この東京物流センターでも、お客さまに安心・安全に荷物をお届けする体制を構築するためには、庫内作業やトラック配送を委託する各専門業者(パートナー)も含め300人以上の人員が必要ですが、その人員を確保する難易度も高まっています。また、燃料費などのコストアップも大きな課題です。
そうした環境変化の中でもサービス品質を維持していくために、さまざまな改善に取り組んでいます。
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貨物のトラックなどへの積み込みや荷下ろし、入出庫などの作業のこと
「見える化」によって当たり前を見直し、改善すべき“ムダ”を見つける
― 具体的には、どのような取り組みをされているのですか?

土谷:まずは、物流のあらゆる流れの見える化を進めています。各商品の重さ・大きさ、どの倉庫から、どのトラックで、どのようにどこへ運ぶのかなど。1日に約3万件を扱うため膨大な情報量となりますが、IT本部と連携してできるところから情報を収集・分析し、“ムダ”を見つけ、改善すべき点の検証に生かしています。
そうした中、特に成果が表れているのが「積載効率向上」の取り組みです。一人のドライバーが1回に運ぶ量を増やすことにより、配送車両を減らす工夫をしています。
例えば、従来は10トントラックを毎日走らせているルートがあったのですが、特定曜日の配送をなくし、代わりに前後の日の便の積載量を向上させるなどの効率化を行いました。
また、他社との共同配送も積極的に進めています。共同配送とは、複数の企業と協力し、荷物をまとめて効率的に配送する取り組みです。実は以前から他メーカーとも協力して、量販店向けに共同配送を行っていました。そうした下地を生かし、2023年からはさらに取り組みを広げ、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の会員企業による「共同配送プロジェクト」 に参画しています。まずは北海道エリアにおける共同配送のルートや受注システムの最適化に取り組み、2023年4月から2024年3月までの1年間で、積載率4.8%向上、車両台数を年間938 台(19.8%)削減、CO₂排出量を年間62.5 トン(16.4%)削減などの成果に貢献することができました。JBMIAを核として、現在は九州、甲信越の各エリアでの共同配送の可能性を探っているところです。

― 荷台の空きスペースや過剰な便数などの“ムダ”をなくし、効率化を図っているのですね。他にはどのような取り組みがありますか?
土谷:例えば、「ドライバー待機時間の削減」があります。「荷待ち時間」と呼ばれるのですが、物流拠点まで運んできた荷物を下ろし、次に運ぶ荷物をトラックに積む間、ドライバーには待ち時間が発生してしまいます。この待機もドライバーの業務時間に含まれ、長引けば長時間労働の原因にもなるため、積み下ろし時間の見える化を行い、改善点を検討しました。その結果、荷物の発送元(発荷主)によってトラックへの積み込み方法が異なり、特にパレタイズ(パレットへの積み付け)がされていない場合、2時間を超える待ち時間が発生しやすいことが判明しました。そこで各発荷主と調整してパレタイズを徹底してもらうことで、荷待ち時間短縮を実現しました。
他にも、「動脈物流」と呼ばれる「商品を届ける配送」と、「静脈物流」と呼ばれる「下取り品などの回収」を統合する動きも進めています。これまでは、それぞれ別のドライバーが行っていたのですが、商品を届けたドライバーが回収も行うという運用に変更し、最適化を図りました。
― こうした動きは、物流の効率化だけではなく、コスト削減や環境配慮などにもつながりますね。
土谷:その通りです。サステナブルなロジスティクスを提供するために、環境配慮の視点での改善も進めています。例えば廃棄物量の削減。東京物流センターでは、梱包用のストレッチフィルムや発泡スチロールなど多くの廃棄物が発生します。そこで、それらを専用機械で圧縮し、リサイクル業者に販売する再資源化の仕組みを構築しました。また、使用できなくなった木製パレットなども、廃棄せず有価物としてリサイクル業者に販売する取り組みを進めています。
こうしたゴミの再資源化や、さまざまな配送効率改善の結果、2024年にはロジスティクス本部全体で前年比1億円ほどのコスト削減を実現できました。物流コストが上昇傾向にある中で、この数字の達成は、胸を張れる成果だと思っています。
強みは現場の「人」の力。パートナーとの信頼関係の構築が、素早い改善に結びつく
― こうした改善の取り組みが成果を上げられている理由は何だと思いますか?

高瀬:現場の「人」の力を強みとしているからだと思います。私たちの物流は、倉庫内業務や配送などを担うパートナー、販売代理店や小売、法人・個人のお客さま、またお客さまとの間をつなぐ営業担当など多くの関係者からなり、その理解と協力のもとで成り立っています。何か一つ改善策を実行しようとしても、さまざまな関係者に影響しますので、合意を得るためのコミュニケーションや調整、信頼関係の構築が重要です。そのため、ロジスティクス本部のメンバーが現場に在籍し、現場業務を熟知することを大切にしています。
例えば、効率化に向け倉庫内作業のオペレーションを大きく変えなければならない場合、作業を担うパートナーの方々に理解・協力していただく必要があります。そんなとき「たまに視察に来るだけの人」よりも、「常駐していつも一緒に汗をかいている人」から提案された方が、「協力しよう」と思っていただきやすいですよね。
現在ロジスティクス本部には約70名の社員が在籍しているのですが、そのうち30名ほどがこの東京物流センターに勤務しています。物流の現場に本部社員が常駐し、パートナーとの信頼関係を構築しているからこそ、現場で発生している困りごとや改善事項に素早く気づき、着手できるのだと思います。
今井:パートナーの方から、「こうした方が作業しやすい」など業務改善の提案をいただくことも珍しくありません。すべての意見を汲み取りながら改善を進めるのは簡単ではありませんが、改善が実現し、パートナーから「ありがとう」の言葉をいただけたときには、大きなやりがいを感じます。
― では最後に、今後取り組んでいきたいことについて教えてください。

高瀬:「平準化」と「自動化」の実現です。「平準化」とは、極端に作業が集中する日や逆にほとんどない日が生まれないよう、作業量を分散させることです。物流センターでは原則、自分たちで入庫(在庫の補充)と出庫(納品)の量やタイミングをコントロールすることはできません。そのため、例えば入庫や出庫が集中した日には、作業の遅延やドライバーの待機リスクが発生します。そうした繁閑の波を作らないためにも、あらゆる情報の見える化と分析をさらに進めていきたいと考えています。さまざまなデータを俯瞰して見られるようになれば、他部門との連携や入出庫のタイミングのすり合わせなどにより、作業量の調整がしやすくなると思います。
土谷:「自動化」については、やはり労働人口が減少する中で、提供するロジスティクスの品質を維持するためにも、必須の取り組みだと考えています。現在は仕分けロボットを試験導入し、庫内作業の自動化に取り組んでいるところです。東京物流センターでは、オフィス向け複合機といった大きなものから、カメラなどの小型かつ繊細な機器まで幅広く扱っていることもあり、ロボット導入などが難しい環境にありますが、段階的にでも前に進めていきたいと考えています。
今井:現在、物流を取り巻く環境は厳しい状況ですが、「2024年問題」などをきっかけに物流に関する世間の関心や理解が高まっていることは業務改善のチャンスでもあると思います。「キヤノンMJの配送なら安心」と思っていただけるよう、パートナーや他部門との連携をさらに強化して、「安心・安全に荷物が届く」という「当たり前」を実現し続けていきたいと考えています。
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